大井川通信

大井川あたりの事ども

『現代建築の冒険』 越後島研一 2003

中公新書の一冊で、建築の一般書として特別に評判を呼んだ本ではないのだろうが、僕にはとても重要な本だ。10年ぶりに再読して、あらためてそう思った。

10年前読んだあとに、東京の都心部を歩いてみて、著者のいう④「縦はさみ型」のビルが多くあることに目を見張った。それとともにより新しい建築が、空間を柔らかく包むような⑤「屋根付き包み込み型」であることが納得できた。今回読みながら奈良を訪ねたとき、奈良県庁舎が、②「横はさみ型」が③「伸びあがる屋根型」に移行する典型的な形であることを発見した。とにかく、実際に現代建築の形を理解する手がかりとして、役に立つのだ。

日本人は、明治時代の西洋館の模倣の時期を経て、1920年代からヨーロッパの近代建築を独自に消化する努力を続けてきた。その努力の歴史を、形をめぐる建築家たちの想像力という場面で切り取り、その内発的な展開としてとらえる視点が鮮やかだ。

著者は、形態的な想像力の「原型」というべきパターンをいくつか取り出し、その変遷を具体的な建築作品を通じて示していく。パターンには独自の記号が使われるし、できるだけ正確に言語化しようとする著者の記述は、決して読みやすくはない。しかし、その論理展開は一貫してスリリングだし、説得力がある。

何より、日本人にとっての居心地の良さの典型である①「屋根付き開放型」を出発点に据えて、それとの対決で形態的想像力のありようを計る視点が貴重だろう。僕は、もともと古建築への興味から建築を観るようになったから、伝統的な日本建築と近現代建築とのつながりを理解したいと思ってきた。著者の視点は、その有力な方法となる気がする。