大井川通信

大井川あたりの事ども

おあお鳥と山の媼(おうな)

時々、友人が近所の鳥の声を録音して、メールで種類を尋ねてくれる。自然の豊かなところにすむ神主さんの家系の人なので、鳥の声も珍しくて、僕の勉強にもなる。

先日、友人の聞きなしだと「ふぉわお~ふぉわお~」と鳴く鳥の録音が届いた。ウグイスやカラスの声の背景で、森の奥から、確かにそんな声が聞こえてくる。ちょっと不気味な声だ。

調べたら、アオバトだった。身近なキジバトと比べると、ずっと高音で、細い声だ。節まわしも安定していなくて、人間の苦し気な吐息のようにも聞こえる。外見は黄緑色の美しい姿で、ふだんは山地の森に住むが、集団で岩場に海水を飲みに訪れることでも有名だ。友人が住むのは、海に近い森のそばなので、生息しているのだろう。

僕の住むあたりでも、注意すれば、聞くことができるかもしれない。そう思いながら、この「おあお」となく鳥のことが、なぜか気になっていた。実際に聞いたことはないのに、どこか懐かしい響きに思える。

今朝、ふと思いついて、丸山薫の全集を開いて、調べてみた。そうして、「山の媼(おうな)」という昔好きだった詩と再会することができた。詩人が、戦後すぐに北国に疎開していたときの作品である。たんたんと説明しているだけのようで、味わい深い円熟の詩境だ。

 

山の奥にはぽんぽん鳥がゐて/ぽんぽん ぽんぽん と鼓を打った/また おあを鳥がゐて/おーあを おーあを と人真似をした/ぽんぽん鳥も おあを鳥も/その声の木霊するところ/杉の森はいく重にも陰影をつくり/絶壁は切り立って/寂しさと哀しさは胸をふさいだ

あゝ 愛(いと)し愛(いと)しの娘ざかりを/髪をけづらず みなりを飾らず/深山(みやま)畠にひとりで働いた/柴を刈りに 桑の実を摘みに/稼いでも稼いでも追い付かぬ生活(くらし)のために/ぽんぽん鳥やおあを鳥を相手に/毎日終日(ひねもす)働きぬいた/そして いつか 蟇(びっき)のやうに年老いた と/山の媼が語った

 

媼(おうな)は、翁(おきな)に対して、老女のこと。びっきとは、ヒキガエルのこと。では、ぽんぽん鳥とは何の鳥のことだろうか。

✳︎この友人から、ぽんぽん鳥はツツドリ(筒鳥)のことだろう、と教えてもらいました。なるほど、筒をポンポンとたたくような鳴き声です。