大井川通信

大井川あたりの事ども

小泉八雲旧家と桂花本店

出張帰り、熊本市街を歩く。修繕中の熊本城を横目に見て、市電を降りる。近くには、五校(旧熊本大)教師時代の漱石と八雲の旧家がそれぞれ保存されているようだが、近い方の小泉八雲(1850-1904)の家の方に立ち寄る。

デパート裏にある街中の公園脇の古い家。実際に八雲が使用したという書斎に座ると、さすがに感慨深い。職員の方に、子ども向きの作品集で八雲を読んだと話すと、何冊か出してくれる。ポプラ社のがそれらしいが、挿絵が違う。「果心居士の話」や「茶碗の中」など、切り絵みたいでもっとくっきりした絵だった。八雲が当時出題した自筆の試験問題のコピーを100円で買う。

地方都市によくある、だだっ広いアーケード街を歩いて、電停に戻る。ここはさすがにシャッターを下ろした店などなく、明るく華やかだ。歓楽街に迷い込むと、目の前におおきな看板に「桂花」と書かれたラーメン屋があるので、外から鋭い目つきで中をうかがってみて大丈夫そうなので、入ってみる。昔の人間なので、ネットで名店を調べて訪ねるというのが苦手だ。食事は行き当たりばったりで、たいていは失敗する。

熊本ラーメンというのだろうか。豚骨のスープの味は濃いけれど、意外にあっさりと飲みやすい。麺はもさっとしていて、生のキャベツと豚の角煮が入っている。変わった味だが、まあ美味しい。あとで気になって調べると、東京にも進出している有名なチェーン店の本店だった。こういう時は、キツネにつままれたような気がして、小躍りするくらいうれしい。

自宅に帰ってから、近所のスーパーで買い物すると、カップラーメンのコーナーに、「名店の味『桂花』熊本本店」という商品を見つける。これだ、これだ、とさらなる偶然に興奮して、購入する。

昔からミニチュアの模型が好きだったから、食べた駅弁の器とセットで駅弁の模型をコレクションしたりしている。しかしカップ麺は微妙だ。たいして小さくもなければ、模型でもなく、ずっと保存するわけにもいかない。食べるしかないか。