大井川通信

大井川あたりの事ども

ビワとカマキリ

以前に妻が、知り合いからビワの葉のエキスをもらってきて、それが市販の塗り薬よりもよく効くと話していた。それで自分で作りたいからビワの葉を見つけてほしいというので探すと、意外と身近なところにビワがあることに気づいた。近所のため池の縁にも、雑木にまぎれて大きなビワの木があって、手を伸ばせば届きそうだ。しかし、そんなところのビワの葉は気持ちが悪いと妻はいう。

それで、庭を少し手直ししたときに、ビワを植えようと思ったのだが、迷信深い妻は、今度は庭にビワは縁起が悪いといいだす。ビワには薬効があるから、ビワの木には、病人が列をつくる。そんなエピソードから中国で、ビワの木は縁起が悪いとも言われたらしい。

しかし、さらによく見ると、道をはさんで正面の家も、すぐわきの家も庭にビワを植えている。だれもそんな迷信など気にしてはいないようだ。ホームセンターで、ちょうど手ごろなビワの苗木を手に入れたので、日当たりのいい敷地の南隅に植えることにした。成長したら、隣家からの目隠しにもちょうどよいだろう。

このビワの苗木に、数週間前から、小さなカマキリの赤ちゃんが陣取っている。苗木のてっぺんには、あたらしく生えてくる葉に囲まれた、すり鉢状の空間がある。そこに体長わずか数ミリのカマキリがとまっているのだ。夜露もたまるだろうし、根気よく待てば極小の獲物も迷い込んできそうな場所だ。小さくともカマキリなので、カマをもたげ、太い胴をぐっとそらせた姿はなかなか精悍なものだ。

ハラビロカマキリの赤ちゃんだろうか。ハラビロカマキリなら、昔、玄関前でスズメバチとの死闘を見たことがある。そんな立派な成虫にまで育つ可能性は、おそらくとても低いだろうけれども、なんとなく心配になって、毎日のぞきに行ってしまう。

子猫を育てるようになってから、けなげに生きる小さな生き物たちのことが、いっそう気になっている。