大井川通信

大井川あたりの事ども

『ほんのにわ』 みやざきひろかず 2018

みやざきひろかず(1951-)の新作絵本を、少し遅くなったが手に入れて読む。完全オリジナル作品で、大人向けであることからも期待がたかまる。

はじめはストーリーを中心に足早に読んでしまったので、絵もいいし、展開も面白いにもかかわらず、なんとなくふに落ちないというか、奥歯にものがはさまったような違和感があって、作品の世界に浸りきることができなかった。

「ほんのにわ」というネーミング自体が、しっくりこなかったのだ。しかし、なんといってもみやざきひろかずの作品だ。引っかかるところにも、なにか別の意図や工夫がかくされているはずだ。そう思って何度か繰り返しよむうちに、その謎がとけるような感じがした。

この作品の面白さの中心は、本の中に描かれた不思議な庭の世界に、主人公の庭師が入り込む、というストーリーにある。だから「ほんのにわ」なのだ。

庭師が本を開いたまま寝たときに、鳥が運んできた種といっしょに「ほんのにわ」の絵に雨がかかってしまい、本にはさまれた種と描かれた庭の植物が発芽してしまう、という展開は魅力的だ。庭師が現実の世界に戻ったあとも、忘れ物の帽子が「ほんのにわ」の中に残っているというオチもしゃれている。

たぶん子ども向けなら、このシンプルな筋で一冊にしただろう。けれど、作者は、庭師の親子関係というモチーフをそこに盛り込んでいるのだ。

この本は、庭師の死んだ父親の書いた本ということになり、「ほんのにわ」のアイデアも庭師が子ども時代に落書きしたものがもとになっていたのだ。しかし、親密な親子関係のリアリティが前面に出てくると、荒唐無稽なストーリーとのつなぎ目にほころびがみえてしまう。気になってしまう。

庭師だった父親に、なぜそんな不思議な本を作り出す力があったのか。息子が空想で描いた庭の名前が、なぜ「ほんのにわ」なのか。「こどものにわ」とか「ゆめのにわ」とかならわかるのだけれども。一読後の違和感のもとは、やはりこのネーミングによるところが大きい。

しかし繰り返し読むと、やはりこの親子のモチーフが、作品の世界にふくらみを与え、大人の読者にも訴える力を与えていることに気づく。ストーリーの飛躍や欠落が、多くの文学作品と同じように、読み手の想像力を刺激し、新たな読みの世界へと誘ってくれるのだ。