大井川通信

大井川あたりの事ども

次男の子育て(乳幼児期)

次男のワタルが二十歳になり、障害基礎年金の請求手続きをした。軽度の知的障害だから、認定は難しいかもしれないが、親の義務として必要な手続きはするべきだろう。といいながら、医師の診断書をとるのに手間取り、ずいぶん遅れてしまった。

認定請求には、病歴の記録がいる。それで、妻が残した二冊のノートを読み通しながら、20年間の子育てを振り返る、良い機会にもなった。

ワタルの頭打ちが始まったのは、1歳になる頃だったと思う。うつぶせに寝そべって、頭を床に打ちつける。ぐずりながら、それがおさまらない。仕事から帰って家に近づくと、頭打ちの音が道路までも聞こえてきて、ゆううつな気分になったことを覚えている。

言葉もなかなか出てこない。2歳になったときに小児科の専門医に診せると、3歳までに言葉が出なければ、知的障害の可能性があると診断された。その後は、一喜一憂しながら、ワタルの成長を見守ることになる。ノートの一部を抜粋してみる。

 

2歳1か月 こっちへおいで、というと来るようになった/ミニカーを見て「ブーブー」という時もある/人がしゃべる時、その口をじっと見るようになった/はっきり私のことをママだと思って「ママ」と呼んだ気がする/頭を打ちつけたとき「やめなさい」というと素直にやめるときもある

2歳7か月 こおり・ちょうちょ・むし(ブシ)・いっちゃった・牛乳(ニューニュー)・ばいばい・こっちこっち・まんま・きりん(ニリン)・ぞう・くま・目(メメ)・あし・くつ(クック)・ぼうし・ばなな(バーバ)・おにぎり(ニンニ)・パパ・ママ・車(ブーブ)・汽車(キシャーポッポ)・ねんね・はさみ(チョッキン)・おしゃぶり(チュッチュ)・ひこうき・はいどーぞ・かしてかして・おふろ・おいしい・いたい(イテー)・うま・ぱんつ・さる(キャッキャ)・鳥(ポッポ)・耳(ミンミ)・りんご(ンーゴ)

2歳8か月 どうしてじゃー/ぽんぽんかいて・りんごおいし-・おにんにおいしー、など2語文をはじめてはなす

3歳0か月 ちょっとまっておとーちゃん・にーちゃんおかえり・だめだめ(ガメガメ)

 

なんとか、2語文らしきものは話すようになったが、言葉の数が少ない。他の子どもなら、言葉を爆発的に吸収し、自分のものにしていく時期なのだろうが、その力強さがない。3歳になって診せると、小児科医は、世間では言葉の遅い子があとから追いつくことがあるといわれるが(夫婦はそうであることに望みをつないでいた)、その可能性は少ない、つまり、遅れは障害となって残ることをはっきり告げられた。

僕は、学生時代に「障害者の自立生活運動」を身近に体験していたから、長男が生まれる時には、自分の子どもが「障害」をもっている可能性について勘定に入れていた。次男が無事に生まれた時には、自分の家族にそういうことがなかったことを安堵する感情がなかったとはいえない。

しかし、この時から、次男の「障害」と向き合う生活がはじまることになる。