大井川通信

大井川あたりの事ども

東京の災害

東京を出て、今の地方都市での生活がすいぶん長くなった。東京といっても多摩地区だし、都心に通ったのは大学の4年間しかない。だから、たまに東京に帰省すると、今の地元での時間の流れやリズムとの違いが、どうしようもなくはっきりする。

9日は、台風15号が首都圏を直撃した。東よりの千葉県を通ったためと、未明の襲来だったために、宿泊した東京郊外では目にみえる被害は感じられなかった。午前8時までがJRの計画運休で、中央線はその前後から動き出した。幸い、午後4時の飛行機を取っていたから、お昼前に出発すれば、どこか一カ所くらい立ち寄って時間をつぶしながら、余裕で羽田空港に着けると考えていた。

地方では、都心部でもJRは、一時間に数本しかなかったりする。自家用車やバスなど代替の手段はふつうにあるのだ。

しかし、実際に姉の家を出て、国分寺駅のホームに溢れる人の姿を見たときに、地方民の感覚による安易な想定が、まったく通用しないことに気づく。

「近隣県も含め4千万人近い人口を抱える東京圏は、長きにわたり世界一の都市圏だ。この人口集積を支えるのは、公共交通機関の発達である」

数日前の新聞で目にしたこの記事は、むしろ日本的な都市生活のスタイルを称える内容だった。しかし、数分おきに発着する電車がかろうじてさばく巨大な人口は、いったんそれがストップすると、どんでもない数の人々の滞留と渋滞を招く。

JRは超満員で、どの駅のホームにも乗り込めない人々があふれていたが、駅によっては入場制限をしていたようだ。ようやく浜松町に到着して、全身の圧迫から解放されたが、こんどはモノレールの改札に入るための長い行列がある。それが駅の外の広場で何重にも折り返しているのだ。別の方向からの行列とも隣接しており、誘導の駅員が少ないため、そもそもこの行列が正しいのか、どのくらい並べばいいのかがわからず、いらだってしまう。

しかし周囲を見回すと、みな平然として並んでいる。やがて意外なくらいあっさりと行列が進んで、モノレール駅構内へと誘導された。おそらく、災害や混乱や行列への経験値が違うのだろう。このくらいの混乱なら、騒がずともすぐに解消されるし、そもそもイライラしてもどうしようもない。

いつも東京の滞在中は、もし大きな災害に襲われたらどうなるだろうか、とばくぜんと不安に感じてはいた。今回は「計画運休」による混乱だったが、自分にはいいシュミレーションになった。やわな自分には、実際の被災の場面では、とうてい耐えられないだろう。