大井川通信

大井川あたりの事ども

彼岸花の行進

僕が今住んでいる地域は、市街地の周囲にある程度の自然が残されている。近隣にでかけるときには、農地の景色にふれないということはない。細かい農業の段取りについて知っているわけでなくとも、何年も暮らしていて自然と目につき覚えるようになった季節ごとの風景の特徴というものがある。

この地域は麦の二毛作がさかんなためだろうか、初夏の麦秋という熟した麦が広がる景色がある。稲の秋の収穫時よりも色づきがよく、本当においしそうだ。

9月の半ば過ぎの彼岸花も、毎年驚くほど鮮やかに農地を彩る。田んぼのあぜ道に沿って、ずらっと並んだり、ところどころ数本ずつ生えていたりする。この時期の田んぼは緑一色だから、そこに突如あらわれる深紅の花はよけいに目立つのだ。

なぜあんなに田んぼの周辺にだけ、行列か行進のように行儀よく咲くのだろうか。人為的なものなのかどうか、調べればすぐにわかるのだろうが、こればかりは知らなくていい気もする。

彼岸だから、あの世の花なのだろう。あの現実離れした深紅の花は、やはりこの世のものではないのだ。一年のこの時期に、異世界の花の行進が現実の世界を通りすぎる、ということなのかもしれない。