大井川通信

大井川あたりの事ども

缶コーヒーの思い出

最寄り駅の近くの自販機で、UCCのミルクコーヒーを販売するようになった。上から茶色、白色、赤色の帯で3色に塗り分けられ、真ん中にUCCのロゴが目立つ缶コーヒーを自販機で見るのは、本当に久しぶりな気がする。

遠慮がちに金額も80円と控えめだから、つい買ってしまう。飲むと、ミルクと砂糖の入った懐かしい味だ。高校生の頃、自販機で買う一番美味しい飲み物がこれだった。コーヒー牛乳よりは、いくらかコーヒーよりという設定が、当時の人たちには親しみやすかったのかもしれない。

調べると、1969年に誕生した世界初の缶コーヒーなのだそうだ。現代の消費文化の起源は、思いの外浅い。発売50周年を記念して、味覚とパッケージを見直した10代目をリニューアル発売したために、ふたたび世間の目に触れるようになったのだろう。

缶コーヒーといえば、こんな思い出もある。

昔のコーヒー缶(1980年代まで)は、リングを引っ張ると缶からフタが取れてしまうプルタブ方式だった。ちなみに、今の缶は、リングを立ててもフタが内側に折り込まれるだけだが、これをステイオンタブ方式というらしい。

父親が散歩の途中、よほどのどが渇いたのか、初めて缶コーヒーというものを買ってみた。フタのリングを起こしてみたものの、そのまま力を加えてむしり取る、とは思い浮かばない。リングをぐるぐる回すと、ちぎれてフタの真ん中に小さな穴が開いた。そこから水滴のようにしたたるコーヒーを、公園のベンチに座ってずいぶん時間をかけて飲んだそうだ。

戦前に寄席に通って落語家を志望したこともある父親は、そんな自分の失敗談を、さも面白そうに何度も話していた。