大井川通信

大井川あたりの事ども

九太郎のふみふみ

令和最初の日に、我が家にやってきた九太郎は、手のひらサイズで600グラムにもみたなかった。おくびょうで警戒心がつよかったから、同じころの八ちゃんのように自分から寄ってきて甘えるということはなかった。

先月に無事に去勢手術をすませて、体重ももう3.5キロ近くある。お父さんのマイケルも小柄の猫だったから、そろそろ成長もとまるかもしれない。

八ちゃんは去勢手術のダメージが大きく、しばらくふらふらしていた。手術の一週間後に持病のてんかんの大発作があって、あの世に行ってしまった。骨壺はリビングにある。最後に無駄に痛い思いをさせて、かわいそうだったと思う。

九太郎は、心配していた手術のダメージもほとんど感じられなかった。ただ、たまたまかもしれないが、その頃から、僕に甘えてくるようになった。昼間はそんなことはない。夜中だけなのだ。しかも、ふだんお世話をしていて一番仲の良い妻にも、そんな姿をみせないという。

猫が、両足を交互に踏みつけるようにして甘えることは、八ちゃんで知っていた。八ちゃんは、昼間から柔らかいこたつ布団に前足でふみふみをしていた。母猫に母乳を求める仕草だという。

九太郎は、夜中に二階に上がってきたときだけ、僕の枕元で、ふみふみの仕草をする。椅子に座ってパソコンを打っているときは、ゴロゴロとのどを鳴らしながら現れて、膝に飛びのってきたりする。そうしてのどを鳴らしながら、僕の太ももやお腹に前足でふみふみをする。目をほそめてうっとりした表情をしながら。

僕は、膝の上の九太郎を、そっと両手で抱きかかえる。しなやかな感触と体温がそこにあって、冷え冷えしたこの世界に、久太郎と僕しか存在していないような心持になる。