大井川通信

大井川あたりの事ども

ある講演会にて

出口治明氏(1948-)の講演会を聞く。ビジネスマン出身の読書家で現大学総長という肩書は、ちょっと敬遠したいタイプではあるが、話は明快で面白かった。いかにも実社会で練れた人柄にも好感を持てた。

この30年間の日本の衰退は、新しい産業を起こすことができなかったことが原因である。そうなったのは、新しい世界の環境と産業創出で重要な柱となる、女性、ダイバーシティ(多様性)、高学歴(勉強)の三つについて、日本はどれも重要視できなかったからだ。それ以前の製造業モデルに過剰適応した結果だろう。

先日、30年前の長谷川慶太郎論を読んだが、そこで長谷川は、もの作りの現場に即して、日本の適応の優秀さを絶賛していたわけである。この製造業モデルは、現在では、資本主義礼賛論者からも、日本社会批判論者からも、評判が悪く、袋叩きにあっている。

出口は、生命保険業界の人だから、製造業モデルを外から批判するのはわかるが、この30年間の日本の動向には、当事者としてかかわってきたはずである。明快な批判に、どこか軽さやうさんくささがつきまとうのはそのためだ。