大井川通信

大井川あたりの事ども

海をながれる河

詩人石原吉郎の命日と同じ11月14日に、ハツヨさんは亡くなった。62歳で亡くなった石原吉郎が生きていれば、ハツヨさんと同じ104歳になっていただろう。偶然、二人が同世代であることに気づいた。

昭和12年の結婚し、その後満州に渡ったハツヨさんは、敗戦後、4人の幼い子どもたちを連れて無事に引き上げることができたのを、「不思議なこと」と話す。

石原吉郎は、ロシアで敗戦を迎えると、ソ連に抑留され、強制収容所での過酷な労働を体験して、8年後に帰還する。本格的に詩作を始めたのは、40歳の頃だった。ただし、詩人は、バブル景気も、二つの大震災も、失われた30年も知ることなく、1977年にこの世を去っている。

硬質で難解な作品の多い石原吉郎にも、平易で美しい「河」という詩がある。若いころ気に入っていたイメージだが、今はいっそう魅せられる。

 

そこが河口/そこが河の終わり/そこからが海となる/そのひとところを/たしかめてから/河はあふれて/それをこえた/のりこえて さらに/ゆたかな河床を生んだ/海へはついに/まぎれえない/ふたすじの意志で/岸をかぎり/海よりもさらにとおく/海よりもさらにゆるやかに/河は/海をながれつづけた