大井川通信

大井川あたりの事ども

『歩く』は『食べる』に匹敵するほど『生きること』に通じている

村瀬孝生さんの『ぼけてもいいよ』からの言葉。

93歳を迎えたトメさんは、実際は数十キロも離れたところにある自宅に帰ろうとして、不自由な身体をおして出発する。わずかの距離を30分かけて歩いて、力尽きてすわりこむ。村瀬さんは、そんな彼女の「歩く」に徹底して付き合おうとする。

この小旅行を決行するなかで、トメさんは、村瀬さんにいろいろな表情をみせる。同行の村瀬さんを気づかったり、世間の目を気にしたり、四五軒先の電灯を自宅と思い込んで喜んだり、そうでないと気づいて途方にくれたり。

だから、村瀬さんは、歩くことは生きることだと言いきれたのだろう。しかし、こんなシンプルで大切なことを、他の人からは聞いたことがない気がする。

歩くことは、単なる空間の移動ではない。周囲の環境や人々と親密にふれあいながら、ひそかな希望に向けて身を投げ出す行為だ。ほんとうにそうだと思う。