大井川通信

大井川あたりの事ども

『ウニ ハンドブック』 文一総合出版 2019

職場近くの浜辺で、宇宙人の頭蓋骨のような奇怪な生き物の殻をひろって以来、僕はすっかりウニ類の殻を集めるのに夢中になってしまった。調べると、ヒラタブンブクというウニの一種だとわかったのだ。それ以外にも、ひらべったい円盤のようなカシパンというウニも、浜でひろうことができた。

食用のバフンウニやムラサキウニの殻よりも、ブンブクやカシパンの殻はもろいので、玄界灘の荒波にもまれて、たいていは壊れて破片になってしまう。完全な殻を見つけることが、ビーチコーミングの目標となった。

ブンブクも、カシパンも、殻にはヒトデのような五本足の模様が刻印されているのがいかにも不思議なのだが、これは棘皮(キョクヒ)動物の特徴なのだそうだ。棘皮動物は、体の中心軸から五つの同一の構造が放射状に配列されることと、血液の代わりに海水が循環する器官(水管系)をもつのが共通の特徴だという。その中でも、ウニは中空の殻と可動性の棘をもつ仲間だ。

しかし、ウニを調べるのに手ごろな本がない。水辺の生き物図鑑では記述が少なすぎるし、ウニを扱う専門書では素人には歯がたたない。そこに、願ってもないような本が出版された。美しい殻の写真が満載の手のひらサイズのハンドブック。ながめているだけで楽しくなる。表紙には、他のウニやカシパンを従えて、あのヒラタブンブクが主役でデザインされている。

今年はじめに、あこがれの漫画家諸星大二郎さんと地元で会食する機会があった時には、ヒラタブンブクの殻をケースに入れてお土産代わりに渡すことができた。今年は、ウニにはツキがあるみたいだ。

それにしても、文一総合出版さんには足をむけてねることができない。この夏には、セミの鳴き声を調べるのに熱中したが、その時役にたったのも、出版されたばかりの『セミ ハンドブック』だった。目録をみると、『手すりの虫観察ガイド』とか『虫のしわざ観察ガイド』なんて驚きの本まである。きっとすご腕の編集者がいるのだろう。