大井川通信

大井川あたりの事ども

元乃隅神社と諸星大二郎

萩の近くでは、元乃隅(もとのすみ)神社が、観光スポットとして、いつの間にか有名になっている。写真を見ると確かに魅力的なロケーションなので、二日目のメインの立ち寄り先に選んだ。

1955年の創建という新しい神社だが、白狐のお告げによるという稲荷社で、ここでも日本の神社システムの柔軟さはいかんなく発揮されている。外国の放送局で取り上げられたことで、近年有名になったようだ。

国道からはかなり入り込んだところにある日本海に面した神社は、初詣の影響もあってか多くの参詣者(観光客)がいた。実際に目の当たりにしてみると、想像を超えるダイナミックな地形に、うねうねと下る赤い鳥居の群れがよく映えており、なるほどと思わせる景観だった。

鳥居の先の断崖の上は、広場のように開けており、神を迎え入れる磐座(いわくら)のようだ。その突端では、日本海の荒波が吹き上がる「龍宮の潮吹」を見ることができる。少し離れた海には、巨大な台形の岩が、神のための踏み台のように控えている。創建は新しくとも、神を祀るのにまったくふさわしいと思われる場所なのだ。

ちなみに、僕は35年前の社員旅行で、「龍宮の潮吹」を見た記憶がある。神社の方はまったく印象に残っていないが、たくさんの鳥居が建てられたのは近年のことなのかもしれない。

この神社を見て、諸星大二郎の作品を思い出したので、帰ってから調べてみた。海に向って鳥居が並び立つというところは「海竜祭の夜」の舞台がよく似ている。しかし、これはひなびた孤島でのお祭りの話だ。海ではなく、町はずれの鳥居が主役の話だが、地方の観光地化がはらんだ問題を描いている「闇の客人」とも響きあうところがある。

いずれも、アンソロジーにも取り上げられる名作だ。元乃隅神社の余韻とともに、じっくり読みなおしてみたい。