大井川通信

大井川あたりの事ども

鳥居の話

元乃隅神社はごく新しい神社だが、その姿には景観の見事さという以上の説得力が感じられる。断崖絶壁の岩場に立てられた鳥居は、参詣者のためのものというよりも、海からやってくる超自然的な存在を迎え入れるためゲートと考えるほうが自然だろう。

諸星大二郎の「海竜祭の夜」では、海竜様を迎え入れるゲートとして鳥居が描かれている。この作品では鳥居は平たんな浜辺に立てられているが、人間を寄せ付けない断崖の上にある元乃隅神社の鳥居の方が、神の門としてはふさわしい。

しかも元乃隅神社の鳥居の先の断崖は、もともと「龍宮の潮吹き」と呼ばれる海水の噴射が見られる名所なのだ。龍宮に面して立つ鳥居という情景は、さまざまに想像力を刺激する。

問題があるとしたら、観光資源としての神社として当然のことながら、様々なご利益ばかりが強調されていることだろう。諸星の「闇の客人」では、鳥居の向こうの異界からやってくる超自然的な存在の性格として、人間にとってプラスになるものとマイナスになるものとがあることが強調される。祭りによってどちらのタイプの神がやってくるのかは偶然なのだ。

元乃隅神社が向き合う大自然も、晴天でインスタ映えをアピールできる日もあれば、荒天で近づくことさえ困難な日もあるだろう。「闇の客人」に描かれた町のように、大きなアクシデントによって、観光資源としての価値を一気に無くしまうことすらあり得るだろう。そういう過激な二律背反に向けて開かれた鳥居は、僕たちの目を引き付けてやまない。