大井川通信

大井川あたりの事ども

大学に入学した年

安部文範さんと折尾のブックバーに行く。

マスターが、安部さんと同じ大学の文学部の後輩とわかって、大学の入学年が話題になった。安部さんは、1969年の入学で、学生運動のただ中に足を踏み入れた世代だ。当時は、一年、二年の入学時期の差で、入学後の運命を大きく変えるような環境の激変があったと聞いている。安部さんは、69年という年を忘れようがないという。

僕は、1980年の入学。このころは数年の差が意味をなすような時代ではなかったけれど、戦後の社会がおおきな曲がり角を迎える時期と一致している。高度成長が終わりオイルショックを経て、生産中心の社会から、消費が主役となる社会へと転換する。ポストモダンが喧伝される80年代の始まりだ。そんな新しい時代を象徴する田中康夫の『なんとなく、クリスタル』が書かれた年でもある。

ところで若いマスターは、そんな質問が意外とでもいうような表情をして、あいまいに90年代の中頃だと返事をした。

地方から上京して東京生活を始めたのは、個人史の中で重要な出来事だったはずだ。しかし、それを社会的な出来事や年号と結び付けて了解しようという意識が希薄になっているのかもしれない。あるいは、90年以降の「失われた20年」の中で、めざましい変化や飛躍をもたずに時間がひたすら平板にすぎたために、年号が節目を示す力を失っているのかもしれない。

おそらく、ある時期から人々のもつ歴史意識が大きく変わったのだと思う。世代の違う人と話すことで、発見することは多い。