大井川通信

大井川あたりの事ども

怒りのゆくえ(その2)

昨年、エコノミスト野口悠紀雄(1940-)の『戦後経済史』を読んで、いい本に出会えたと、とても感心した。偶然、山家さんと同じ1940年生まれ、名前も同じユキオである。野口さんの本の後半は、今回の山家さんの平成経済史と重なっている。その部分を読み返しながら、本の面白さと内容では、野口さんに軍配をあげるべきだと思った。

野口さんは、その時代にいた過去の自分の認識が当たっていた場合だけでなく、間違っていたり認識不足であったことについても、正直に告白している。この告白や実体験の回想が、経済史をより生き生きと血の通ったものにしているし、野口さんの時代診断や処方箋への説得力をましているように思える。

野口さんの本は、日本経済の長期的な衰退原因として、新興国の工業化や、情報通信技術の革新、ビジネスモデルの変化などのおなじみの問題が取り上げられているが、それらへの対応ができなかった人間的な要因を一段掘り下げて、提示しているが特色だろう。

野口さんの自分の生き方に引き付けて、「真面目に働くことで豊かになる」という労働の倫理感こそ大切だとして、それが国全体で損なわれている現状について、本気で憂えて怒っている。体制批判で一貫してきた山家さんに負けないくらいの怒り方だ。

1940年前後に生まれた世代を「焼け跡世代」というらしい。野口さんも戦争中の幼少期、防空壕で命拾いをした経験をもっており、怒りについては、山家さんとは世代的に共通のバックボーンを持っているのかもしれない。

ただ僕には、野口さんの実存に根差したような怒りの方が、未来を指し示す力をもっているように思える。日本経済は現状のままで、分配の問題さえ大幅にやりかえれば労せずして豊かな国になれるという山家さんのプログラム自体、野口さんの怒りのターゲットになるかもしれない。