大井川通信

大井川あたりの事ども

『非常識な建築業界』 森山高至 光文社新書 2016

先日読んだの『丹下健三』(豊川斎赫著)は、丹下健三とその弟子の有名建築家たちの構想力と作品を、戦後建築史として肯定的に描きだしたものだった。

今回の本は、いわばその裏面史ともいうべきもので、彼らの仕事を身もふたもなくぶった切るものとなっている。門外漢にとっては、両方を知ることが有意義で必要なことだと思えた。

著者は、「周囲の環境とまったく調和しない、それ単体での成立を目指す彫刻のような建築を設計する」建築家を、自身の造語で「表現建築家」と呼び、彼らがつくる威圧的な「どや顔」をした建築を、「どや建築」と呼ぶ。その筆頭に磯崎新(1981-)を名指しするなど、実に大胆で痛快でもある。

それだけでなく、建築教育の在り方や、コンペなど業界の実際を具体的に説明し、どや建築に現れる建築家のオリジナリティ信仰や、業界基準でのかっこいい建築がもてはやされるメカニズムをえぐりだす。

さらには、ゼネコンが牛耳る建設現場のシステムが、近年の産業構造の変化を受けてうまく機能しなくなっていることを指摘する。

生々しい事実が多く示されていて、地に足をつけて建築と向き合う上でとても役に立つ本だった。