大井川通信

大井川あたりの事ども

扉のむこう

九太郎は家の中で飼っているから、家の外の世界に出ることはない。

家族の誰かが外出するときに玄関まで見送りに来たりすることはある。子猫の時は、外に出たがるようなこともあったが、近ごろはそんな素振りを全く見せない。

サッシの窓枠にすわったりして外を眺めることは相変わらず好きで、鳥の鳴き声や車が走る音には敏感に反応している。隣の家の子犬ヒグマちゃんの存在には興味津々だ。それも網戸越しにのぞくことができる世界である。

九太郎が、実際に扉の向こうの世界に出ていくのは、用事があって、ペット用のキャリーケースに入れられる時だけだ。

一番多いのが、動物病院。予防接種を打たれたり、去勢手術をされたり、ろくなことがない。一番最近では、お正月に初体験のペットホテル。周囲が犬ばかりでよほど怖い思いをしたらしく、帰ってしばらく様子がおかしかった。一泊の旅行なら、家で留守番させてあげればよかったというのが家族の結論だ。

今の九太郎にとっては、家の扉の向こう側の世界は、直接、おそろしいペットホテルや動物病院の診察室につながっているのだろう。

どうりで尻込みをして外へ出ようとしないはずだ、と家族で笑った。