大井川通信

大井川あたりの事ども

2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『アクティブラーニング』 小針誠 2018

今流行のアクティブラーニングについて、明治以降の教育史にさかのぼってルーツをさぐり、こまごまとした事実をとりあげて、要領よく整理してある。今になって、アクティブラーニングがことさら取り上げられる要因をあげて、それがもたらす効用の多くが幻想…

道端の神

大通りの歩道わきに、子どものおもちゃみたいな派手な彩りのオブジェがある。アートによる街づくりとかで設置されたものだろう。 真っ赤な金属の積み木を組み合わせたようで、足下には車輪もついているし、顔の部分には、銀色の球がはめ込んであって、目のよ…

『タタール人の砂漠』 ブッツァーティ 1940

読書会の課題図書。ブッツァーティ(1906-1972)はイタリア人作家。カフカの再来とも言われるらしいが、ある辺境の砦をめぐる寓話的な作風で、とても面白かった。 主人公のドローゴは、士官学校を出たあと、辺境の砦に将校として配属になる。砦では、軍隊式…

あるアイドルの話

妻からファンだと聞いていたのは、草川祐馬(1959-)というアイドルだった。ファンクラブにも入り、博多でコンサートにも行ったらしい。西城秀樹のものまねをきっかけにスカウトされて、1975年に歌手デビューをする。1978年に病気で一時休業した後、俳優と…

あるスターの死

西城秀樹(1955-2018)が亡くなった。今までファンだったという話をほとんど聞いたことはないのだが、妻が相当ショックを受けて、喪失感にかられている。不謹慎な話だと思うが、昨年、疎遠だった実の兄が亡くなったときより、衝撃が大きいという。芸能関係…

冬の麦の根は地獄の底まで伸びている

大井川歩きなどと称して農耕地を歩くことも多いが、実は農業については何も知らない。そもそも自然の中でも、鳥や虫に比べて、植物の知識はまったく乏しいのだ。子どもの頃、小学館の学習図鑑でいろいろな知識を仕入れたけれども、植物の図鑑だけはなんとな…

『新哲学入門』 廣松渉 1988

5月22日は廣松渉の命日だから、追悼の気持ちで、さっと読み通せそうな新書版の入門書を手に取った。欄外のメモをみると、以前に三回読んでいる。今回は、20年ぶりの四回目の読書となった。 廣松さんは、僕が若いころ、唯一熱心に読んだ哲学者だ。他の有…

『張込み』 松本清張 1955

新潮文庫の短編集『張込み』を読む。1950年代後半に発表された推理小説を収めたものだが、今から見ると、全体的に、小説としては構成が平凡だったり、トリックや謎解きが不自然だったりして、やや魅力に乏しく思える。 それでは何が面白いのかというと、終戦…

受け入れる勁(つよ)さ

二カ月くらい前に、安部さんから、「玉乃井塾」を一度開きたいと声がかかった。 安部文範さんと知り合ったのは、今から20年くらい前のことになる。「福岡水平塾」という差別を考えるグループの月例会だった。差別問題の元活動家が中心だったが、メンバーの…

山口瞳の家

地元の国立には、小説家山口瞳(1926-1995)が住んでいて、町の名士だった。彼の家は、実家から歩いて5分ばかりの住宅街の一角にあったのだが、当時は子ども心にとても斬新で、近未来的なデザインに思えたものだ。 ふだん用の無い場所なので、本当に久しぶ…

面影がない

その時H君に声をかけたのは、故郷に対する「一期一会」のような思いと、なにより、見知らぬ人と交流する経験のたまものだと思う。H君は、帰省のとき、それまでも一、二度見かけていた。小、中学生の同級生で、頭髪が薄くなっている以外、子どもの時の表情そ…

渡辺豆腐店のおじさん

実家に帰省したときには、早朝周囲を散歩する。「本業」の大井川歩きより、はるかに熱心になる。もともと機会が少ない上に、事情があって、いつまで帰省できるかわからない。そうなると、目を皿のようにして、風景の中に、記憶の痕跡をみつけようとする。 バ…

パルムドール受賞

カンヌ映画祭で、是枝裕和監督の作品が最高賞を受賞したそうだ。特別に映画好きでもなく、もちろん監督とは一面識もない自分が、そのことでちょっと心がざわついてしまう、というのが我ながらおかしい。 ある時、是枝監督が、同じ高校の一学年後輩だったこと…

長崎港のクルーズ船

長崎の街の対岸のホテルから港を見下ろす絶景で、そこに異様なものが見えているのに驚いた。巨大クルーズ船だ。細長い長崎湾を埋め尽くすような勢いで、建造物として見ても、街のビル群を圧倒する巨大さだ。小さな街の路地に、不釣り合いに大きなゾウが入り…

ホトトギスが鳴いた

5月16日の日中に、ホトトギスの初音を聞く。ほんとのことを言うと、先週くらいからそれらしき鳴き声をかすかに聞いていたのだが、まちがいなくホトトギスと認識できたのは初めてだ。手元のメモを見ると、昨年は5月12日、2015年は5月13日、2014年は5月18日と…

「かっちぇて」のある場所

片山夫妻の主宰するたまり場「かっちぇて」を訪ねる。 長崎に仕事で行って、その空き時間を利用したのだ。前日にメールをすると、片山さんたちは運悪く不在で閉まっているとのこと。ただ、僕は、彼らの見つけた場所に興味があったので、地図とカンを頼りに坂…

親子は別れてはいけない

春、巣作りから始まるツバメの献身的な子育てが、間近で続いている。しかし、巣立ち後まもなく、親であり子であった事実は忘れ去られるだろう。 以前、内田樹のこんな言葉に救われたことがある。生物学的にいえば、親の唯一の役割は、こんな親と一緒にいると…

人は死んではいけない

開発が進むこの地域にも、大型の鳥の姿を見かけることは多い。トビや、アオサギやカワウなど。カラスだって、けっこう大きい。彼らの一羽一羽は、生まれ、育ち、老いて、死んでいっているはずだが、その死骸を見る機会はめったにない。残された森や里山の奥…

生死巌頭に立在すべきなり

日付を見ると、2001年6月29日とあるが、朝日新聞夕刊の「一語一会」というコーナーに、今村仁司先生のエッセイが掲載された。仏教哲学者清沢満之の言葉を取り上げたもので、清沢の原文は次のように続く。「独立者は、生死巌頭(しょうじがんとう)に立在すべ…

学の道

今村先生は、晩年、清澤満之の著作との出会いを通じて、仏教の研究にも取り組むようになった。清澤満之の全集の編集委員を務めたし、清澤関連で3冊を上梓し、最後の出版は親鸞論だった。その中で、新しい人との出会いも多くあったようだ。ネットを見ても、…

お風呂場のデリダ

今村仁司先生の講義を聞くようになった大学の後半、僕は、地元の友人たちといっしょに公民館で地域活動にかかわるようになった。70年代に「障害者自立生活運動」が巻き起こった土地だったから、当時周囲にはアパートで自立生活をする「障害者」とそれを支…

シンポジウムの廣松渉

今年がマルクス生誕200年であることを、テレビで偶然知った。ドイツのマルクスの故郷に中国が記念の銅像を贈ったということを、昨今の中国の動きとからめて批判的に紹介するニュースだった。ソ連の崩壊と冷戦の終結で、資本主義と民主主義が勝利し、もう「歴…

今村ゼミの思い出

当時は、就職活動の解禁は、大学4年の6月くらいだったような気がする。卒業後就職して会社員となるというイメージしかなかったから、大学では3年から保険法の就職ゼミに入っていた。一年間、今村仁司先生の講義を熱心に聞いて、さて学生最後の一年をどう…

井之頭公園のアルチュセール

僕が今村仁司先生の存在を知ったのは、大学3年になったばかりの時だった。法学部に入学して、大学受験の延長戦で、司法試験の受験勉強に取りかかったものの、すぐに息切れしてしまった。目的を見失うと、無味乾燥な「解釈法学」の勉強は、およそ色あせたも…

人を忘れるということ

うろ覚えなのだが、心に引っかかっていることがあるので、書いてみる。 ある高名な宗教学者の文章にこんな部分があった。彼は、死や老いについて繰り返し書いたり、語ったりしている人だ。アメリカ大統領の長年の友人が、あるときその元大統領が痴呆によって…

『現代思想のキイ・ワード』 今村仁司 1985

5月5日は恩師の今村先生の命日なので、追悼で何か読もうとして、一番手軽そうな新書を手にとってみた。社会人2年目に出版と同時に読んでから、読み通すのはおそらく30数年ぶりになる。しかし、手軽と思ったのは大間違いだった。 当時流行していた「現代…

氏神とキビタキ

縁があって、とある氏神のお祭りに参列した。社は、小山の頂上にあって、林で囲まれた野外の境内でお祭りはとり行われた。大きな神社からきた狩衣の神職が、祝詞をあげたり、お祓いをしたりする。その間、参列者は、若い巫女さんの指示で、頭をさげたり、玉…

『目羅博士』 江戸川乱歩 1931

読書会で乱歩の作品を読んでいる時、隣の席の若い女性の参加者が、『目羅博士』が好きだと言った。『目羅博士』は、かつて僕も、乱歩の短編の中で一番好きだった。読み直してみると、少しも色あせてなくて、嬉しかった。ごく短いものだが、構成も内容も文体…

『五日市憲法』 新井勝紘 2018

気づくと、憲法記念日だ。『五日市憲法』に関する新刊を買っていたので、読み通してみた。面白かった。五日市憲法については、学校で習った記憶がある。今では、小学校の社会科の教科書にも取り上げられている。 著者は、東京国分寺の東京経済大学で、色川大…

こんな夢をみた(転売屋)

近ごろは、早い時間に睡魔に襲われて、客間のソファーで寝てしまう。夜半に置きだして、がさがさ活動する。今がそう。よくない傾向だ。見たばかりの夢。 誰かの後について、大型安売り店の中をぐるぐる歩き回っている。自分以外にも別のメンバーがいたのだが…