大井川通信

大井川あたりの事ども

2018-01-01から1年間の記事一覧

こんな夢をみた(山口昌男)

舞台は今住んでいる住宅街なのだが、例によって様子が違う。もっと広々として、見慣れた住人もいない。 すぐ隣の組に、文化人類学者の山口昌男(実際は故人で、一度だけ講演を聞いたことがある)の夫婦が引っ越してきた。同じ自治会でもグループが違うのだが…

あっこさんの宿題

ちかごろは、宿題だらけの世の中だ。 職場の近くのカレー屋さんで、地元の知り合いとランチを食べる。店はアジア風の雑貨屋さんのようで、壁には様々な絵が描かれている。知り合いの行きつけだから入ったが、ふつうなら敷居が高い。 最近何周年かのイベント…

ありがとにゃん

井川博年に「生きていく勇気」という詩があって、学生時代に読んでから、頭の片隅に残っていた。 僕は友人とバーで飲んで、友人のバカ話に耳を傾ける。出張先の街でオカマ二人に声をかけられてホテルに入っておこなった行為の詳細に、腹を抱えて笑う。そして…

『ハイファに戻って/太陽の男たち』ガッサーン・カナファーニー

読書会の課題本。2017年刊行の河出文庫の短編集。著者カナファーニー(1936ー1972)はパレスチナに生まれ、難民となり、パレスチナ解放運動に参加するかたわら小説を執筆。36歳で暗殺されるが、遺された作品は、現代アラビア語文学の傑作として評価されてい…

営業所のち美術館

僕は学校を出てから、ある生命保険会社に就職した。配属先はある地方都市の支店で、管轄の地域にいくつかの営業所をもっていた。 業界の中堅どころで働いてみて初めて気づくのは、やはり業界大手の会社との、規模や知名度や商品の内容についての格差である。…

宮田さんの宿題

宮田さんはケーキをとりわけると顔を上げて、それじゃあなたに宿題を出します、と言い出した。僕が、こんど一人でゆっくり話に来ますと言ったからだろう。宮田さんからの宿題はこんな内容だった。 明治に入って、西洋の美術が入ってきて、遠近法等の様々な技…

夢の記憶

★以前に書いた夢のノートから ★夢の世界は、あいまいで不定形なイメージの群に、「誰」「どこ」「何」が明確な自分の経験として立ち向かうところに生じる、ということか。 夢に学生時代のあまり親しくもない知人が出てきたときに、起き抜けの自分には、その…

夢の破片・夢の動機

★以前に書いた夢のノートから。 ★著名な経営者カルロス・ゴーンの逮捕の報道に驚いて、それが夢になるのは何の不思議もない。ただ夢の中のゴーン氏のビルの中の様子は、異様で特異だった。 夢分析の本は、夢を完結した物語として取り出し、あたかも神話や伝…

夢の入り口

以前、睡眠時にみる夢について、自分のみた夢日記をもとに考察したことがあった。そのとき自分なりにわかったことの要点は、夢の断片ともいうべきイメージのまとまりは、睡眠時間中にある程度偏在していて、そのうちいくつかを寝起きに一つの夢として統合す…

こんな夢をみた(ゴーン氏)

カルロス・ゴーン氏のところで、僕は働いていた。 ゴーン氏の自動車が使えなくなったらしく、ちょうど同じ車種の僕の日産ノートをゴーン氏に貸してしまう。ゴーン氏は使い終わった車のカギを運転手の女性に渡してしまったので、僕のほうが車を使えずに困るこ…

獲物のあがる日

海からの風が強く、波も荒い日、朝から松林の上にはカラスが飛び回っている。こんな時、二羽で追いかけっこを始めるカラスが必ずいる。どこかはしゃいでいるようだ。 夏には子どもたちが占拠していた浜辺も、今は荒涼として、鳥たちが獲物があがるのを待つえ…

『漂流怪人・きだみのる』 嵐山光三郎 2016

嵐山光三郎は、地元国立の近所に住んでいたので、街で見かけることがあった。夜の街角で、街灯に照らされて目の前を横切った自転車に、嵐山光三郎が乗っていて驚いたことがある。当時、人気テレビ番組に出演していて、顔は広く知られていたのだ。そのころは…

鉄腕パンチ/電光回し蹴り

チャンネル権が父親にあったので、学校で子どもたちが話題にする番組をみることができなかった。ドリフターズや歌謡番組、アニメなど。しかし、まったく記憶にないわけではないのは、父親がお風呂に入っているときにでもこっそり見ていたのだろうか。 父親は…

「祝辞」 NHK 土曜ドラマ 1971

結婚式のスピーチで思い出すのは、子どものころ観たあるドラマだ。当時チャンネル権は父親が掌握していたから、父親から公認されたドラマ視聴だったのだろう。それで僕の記憶に残っているのは、妙に大人びた番組ばかりということになる。 記憶では、「テーブ…

結婚式で祝辞をのべる

職場の人の結婚式で、スピーチをした。ネタ探しから、原稿書きと推敲、読みの練習とずいぶんと時間をつかった。会場と同じくらいの広い場所で実際にスピーチしてみる。空間に意識を向けるのは、演劇ワークショップで習った手法だ。今回は新しい試みとして、…

鳥の巣をひろう

林の中で鳥の巣をひろった。初めてのことだ。 小さなどんぶりくらいのサイズで、真中に直径5センチメートルくらいのきれいな半円の穴が作られている。内側は茶色の細い植物の繊維のようなもので編まれているが、外側は白っぽい材料が目立って、編み方も雑に…

『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』 金谷武洋 2014

最近文庫化されたので手に取る。タイトルだけ見ると、いろいろ突っ込みを入れたくなって、読むのをためらってしまいそうになるが、本の中身はたいしたものだ。 カナダの大学で25年間、日本語教育と日本語の研究を行ったきた著者が、現場で考え、実地で体験…

神社という場所

昨日の展覧会評で、神社は非日常の場所であるという、当たり前のことを確認した。問題はその中身である。僕は、大井川歩きで、地元の小さな神社やホコラに足を運ぶ中で、これらの場所の意味を確かめていった。香椎宮のような巨大な神社のもつ意味合いも、か…

「美 つなぐ 香椎宮」展 2018

神社という場所に関心があるので、そこで現代美術にどんなことができるのか、期待があって出かけてみた。しかし思った以上に現代美術の作品が無力な印象を受けた。ちょっと残念だった。 勅使館という施設の座敷や庭園という閉ざされた空間の中で展示されてい…

寒風にゆれる女郎蜘蛛

以前、電灯近くのジョロウグモの巣に、一面コバエのような小さな虫がくっついているのを見たことがあった。明かりに集まったコバエが捕まってしまったのだろう。しかしこれでは、巣の存在が一目瞭然だ。すると主であるジョロウグモが、その一つ一つを口でく…

あべこべのひと

20代の頃、東京の塾で同僚だった知人と会った。 知人は僕よりいくらか年長で、今年塾を定年退職したそうだ。それで再就職までの時間を利用して、実家の隣町に住むお姉さんの看病で二カ月ばかりこちらに滞在しているという。僕が今住んでいる地方が、たまたま…

麻酔の恐怖(続き)

足首の金具をはずす手術のあとは、部分麻酔が十分に効いていたから、前回の時のような激痛は免れた。しかし、その代わり少し不思議な体験をした。 手術した右足は、ふくらはぎから足首まで包帯におおわれて、足指の付け根くらいから上だけが露出している。そ…

『感性は感動しない』 椹木野衣 2018

以前、現代美術が専門の知人に、美術の批評家で誰が面白いかを聞いたら、椹木野衣(さわらぎのい)の名前を教えてくれた。新聞の書評を意識して読むようにすると、なるほど彼の書く文章は、平易に書かれているにもかかわらず、解像度が他の書き手とはワンラ…

麻酔の恐怖(その1)

以前に足首の骨を折ったときに、全身麻酔の手術を受けたことがある。移動用のベッドに載せられ手術室に入っていくとき、仰向けに見上げる部屋の天井や医師たちの様子が、映画のシーンみたいで既視感があった。人生の最期に観る景色は、こんなものかもしれな…

『夜と耳』Ort-d.d(Theatre Ort)2012

安吾の短編集を読んで、6年前に観た小劇場の芝居を思い出した。安吾の『夜長姫と耳男』を原作とした劇だったからだ。 中年過ぎてから、とあるワークショップに参加したのをきっかけに小劇場の舞台を観出した僕は、なんとか舞台を観る眼を養いたいと、観劇リ…

坂口安吾の短編を読む

読書会の課題図書で、岩波文庫の安吾の短編集を読む。以前柄谷行人が安吾の再評価をした時、評論を読んで、なるほど面白いと思っていた。しかし今小説を読むと、『風博士』『桜の森の満開の下』『夜長姫と耳男』などの一部の特異な作風の作品をのぞいては、…

寝具にくるまって

体調がすぐれなくて、寝具にくるまって休んでいる時に、ふとこんなことを考えた。 たとえば、圧倒的な権力や経済力を誇っている人物にしたって、あるいは、何かの分野で突出した才能を発揮して名声を勝ち得ている人間にしたって、一日に一度は、こうして寝具…

ミソサザイを看取る

朝から職場で、スズメが部屋に紛れ込んだと騒いでいる。窓を開けて出て来るのを待っているのだが、書棚の上などに隠れてなかなか飛び立たない。ようやく飛び立つと、ガラスにぶつかって、またどこかに隠れてしまった。 こんどは部屋を横切るようにながく飛…

子どもの呼び名

吉本隆明は子どもの時、家族や友達から、「金ちゃん」と呼ばれていた。上級学校では、理屈っぽさから「哲ちゃん」と呼ばれたというのは、吉本らしい。(『少年』1999) なぜそう呼ぶのかのを親戚のおばさんに聞くと、タカアキが、タカキ、タカキンとなり、そ…

いじめっ子と妻(その3)

次男は、二歳を過ぎても言葉が出なくて、幼稚園に入っても、園ではいつもお世話をしてくれる専任の先生の膝の上にチョコンと座っていた。小学校に入学後もしばらくは、クレヨンしんちゃんなどの好きなアニメのセリフを好き勝手にくりかえすことが多くて、友…