大井川通信

大井川あたりの事ども

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

次男の子育て(作文と読書)

次男の勤める職場では、職員研修の後のレポートを書く課題がけっこうな頻度である。今回子育てを振り返りながら、次男が小学校入学時、宿題が好きだったことを思い出したが、今でも提出日の何日か前には書き上げてしまう。 確か入社して丸一年がたったときに…

『ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評』 柿木信之 2019

僕が西洋の思想家の中で、親しみをもって愛読したといえるのは、ベンヤミン(1892-1940)だけだと思う。系統的に主要著作を読んだわけではない。いくつかの著作の一部を、繰り返し読んだというにすぎないけれども、読むこと以上に、いろいろな場面で彼の言…

彼岸花の行進

僕が今住んでいる地域は、市街地の周囲にある程度の自然が残されている。近隣にでかけるときには、農地の景色にふれないということはない。細かい農業の段取りについて知っているわけでなくとも、何年も暮らしていて自然と目につき覚えるようになった季節ご…

「とはすかたり-学舎の肖像-」 鈴木淳 ×AQAプロジェクト 2019

僕の実家は、某国立大学の近所にあったから、うっそうと樹々の茂ったキャンパスを遊び場にして育った。林の中や芝生の上には、学者たちの古びた半身像や全身像があって、その台座の周囲をぐるぐると走りまわった。彼らが生前どんな人物だったかなどとは、考…

『ミリアム』 トルーマン・カポーティ 1943

カポーティ(1924-1984)が19歳の時の短編。読書会の課題図書で読んだ新潮文庫の短編集『夜の樹』の中の一篇。 やはりミリアムが何者かということが話題になったけれども、ミセス・ミラーの別人格や 分身として受け取る意見が主流だった。孤独で地味に生き…

夏休みの詩の宿題

もう10年くらい前になると思うが、以前職場の同僚だった人から自分の子どもの夏休みの宿題の代作を頼まれたことがある。たしか間に誰かが入っていて、僕ならなんとかなりそうだということで話が回ってきたのだと思う。 仕方なしに、セミのネタで「夏の合唱…

次男の子育て(小学校高学年)

感覚統合研究会(SI)の3年間を修了すると、小学校入学前の療育施設「のぞみ園」から引き続く6年間の手厚い人間関係を、親子ともども失うことになった。ワタルは、ずいぶんしっかり言葉をしゃべれるようにはなったが、ひきかえに時には厳しい人間関係にさ…

セミのいろいろ

9月の下旬に入って、家の近くではもうツクツクボウシの鳴き声も聞かなくなった。ある程度まとまった林に行けば、まだツクツクボウシは元気にないているし、おそらく来月の初旬まで聞くこともできるだろう。しかし、もうセミのシーズンは終わったといっていい…

「共鳴りの術」と日本の家

玉乃井カフェを訪ねて、主の安部さんと話している時、古い家屋で耳に入る音について話題になった。 築百年の木造の旧旅館は、雨だれや風の音など、さまざまな自然の音を増幅してひびかせる。また、屋内で生じるささいな音、例えば時計の機械音なども、はっと…

追悼 イマニュエル・ウォーラーステイン

「世界システム理論」で著名な、歴史学者・社会学者のウォーラーステイン(1930-2019)が亡くなった。冥福をお祈りしたい。僕の学生時代には、すでに輝かしい名前だった。 手持ちの『史的システムとしての資本主義』を再読する。原著の元になった講義は、19…

人間とは本来「自然、時間、土地」という自身でどうにもできない条件に制約された存在です

アメリカの政治学者パトリック・デニーンの言葉。新聞のインタビュー記事で見つけたものだが、今の自分にはとてもしっくりとくる言葉だ。 自由主義は、こうした制約をなくても困らないものとし、自分が思う通りに自由に動き回ることをよしとして、そこから膨…

すた丼のほろ苦い味

食に関しては知識も味覚もなく、唯一記事にできるB級グルメが「すた丼」だ。今年になってから地元にチェーン店が出店したので、帰省時にねらって食べる必要がなくなった。それで何十年ぶりかで、すた丼発祥の店を訪ねることにした。 国立駅は撤去されていた…

『ケーキの切れない非行少年たち』 宮口幸治 2019

著者は、公立精神科病院で児童精神科医として勤務していたが、発達障害や知的障害をもち様々な問題行動を引きおこす子どもたちに対して、対症療法以外の支援方法を見いだせずに悶々とした日を過ごしたという。藁にもすがる思いで病院をやめ、支援のヒントを…

次男の子育て(感覚統合研究会)

小学校入学と同時に、ワタルは感覚統合研究会(「SI」)に週一回通うようになる。この会は、地元の教育大学の学生のサークルで、顧問は他大学に転出した先生が時々指導に来ていた。会では学生たちが感覚統合理論に基づいて療育する子どもを募集していて、ワ…

次男の子育て(小学校入学)

いよいよワタルの小学校生活が始まる。幼稚園での様子からは、補助の先生なしで小学校になじめるのか、とても不安だった。 ところが、四月には、ワタルが宿題にマルをもらってかえってきた。本人も「がっこうはしゅくだいがあるからいい」と話したという当時…

つぎは15メートルの流しそうめんがやりたい

職場がある地域の敬老会に参加する。 この夏には、自治会の役員さんたちの協力で、地元の竹を使って流しそうめんの台をつくってもらった。子どもたちにはとても好評だったから、そのことのお礼をあいさつで言おうと思った。竹を接いで、8メートルの長さの台…

転職問答

A:転職を考えているようだけど、君の知り合いで転職した人の情報は集めているの?成功例とか失敗例とかを聞けば参考になるかもよ。 B:自分のやりたいことがあって転職した人は、だいたいうまく行っているみたいだ。そうでない人の転職後の話はあまり入って…

次男の子育て(てんかん発作)

幼稚園年長さんの9月に、はじめてのてんかん発作があった。朝ふとんの中で、口から泡を吹いて、よだれがながれ、身体がだらんとして無反応になる。(妻はよく、目が流れる、といっていたが、黒目がはじに寄ることだろう) この時は二日ほど入院し、薬を処方…

次男の子育て(幼稚園)

ワタルの幼稚園は、キリスト教系の園だった。僕が住んでいる住宅街がある丘のはずれの森の中の木造の園舎で、近くにはため池と小さな教会があった。僕もきまぐれで、一度だけ日曜の礼拝に参加したことがある。年配の園長先生が牧師だった。 やはりクリスマス…

文芸評論の時代

少し前に、文芸評論について、こんな記事を書いた。 かつて日本に文芸評論の時代というべきものがあって、彼らが最前線の思想家として、ふるまっていたこと。その理由は、日本人は抽象語による思考が苦手で、現実や生活から遊離したものとなってしまうので、…

東京の災害

東京を出て、今の地方都市での生活がすいぶん長くなった。東京といっても多摩地区だし、都心に通ったのは大学の4年間しかない。だから、たまに東京に帰省すると、今の地元での時間の流れやリズムとの違いが、どうしようもなくはっきりする。 9日は、台風15号…

上池台3丁目と東雪谷4丁目

東京都大田区の住宅街。商店街や工場や目立つ公共施設があるわけでもなく、特に特徴がない地域だ。地名に「台」と「谷」がつくくらいだから、地形には起伏があり、坂が多い。 東雪谷4丁目の方は、洗足池へと流れる狭い水路があり、細い緑地帯にもなっていて…

二つの聖地

実家の整理の話があって、急遽東京にいく。早い飛行機にのったが、初日は用事はない。近頃は内向きの生活をしているせいか、行きたい美術展も名所旧跡も観光スポットも思い浮かばない。それで、聖地巡礼をすることにした。 実は、初めからそう思って訪ねたわ…

次男の子育て(のぞみ園)

3歳から3年間、毎週一回、療育施設「のぞみ園」の療育訓練を受けにいくことになった。この施設の先生たちには大変お世話になった。今でもたまに、次男を連れて行ったり、親だけで訪ねたりする関係を保っている。海水浴やバーベキューなど行事もあって、保護…

次男の子育て(乳幼児期)

次男のワタルが二十歳になり、障害基礎年金の請求手続きをした。軽度の知的障害だから、認定は難しいかもしれないが、親の義務として必要な手続きはするべきだろう。といいながら、医師の診断書をとるのに手間取り、ずいぶん遅れてしまった。 認定請求には、…

面接試験の指導をする

知り合いに頼まれて、面接試験の指導をした。経験が少ないにもかかわらず、受験指導となると、つい力が入ってしまうのが悪い癖だ。さらには、そこそこの指導技術があるのではないかと勘違いしているものだから始末がわるい。 受験生は外見も態度も悪くない。…

泉鏡花の戯曲を読む

学生の頃、図書館で泉鏡花全集を借りてきて、ところどころ読みかじっていた時期があった。法律の勉強にあきて、現代思想にのめり込む前の、ごく短い期間だったと思う。よくわからない言葉も多く、描かれる風俗習慣は別世界だ。しかし、読むとその作品世界に…

『わたしの濹東綺譚』 安岡章太郎 1999

『濹東綺譚』好きだった父親の蔵書。立川駅ビルのオリオン書店の、出版年の日付のレシートがはさんである。出版を待ちかねて購入したのだろうか。 『濹東綺譚』出版前後の社会情勢や文壇の裏事情について、安岡章太郎(1920-2013)本人の体験も交えて、気ま…

『ほんのにわ』 みやざきひろかず 2018

みやざきひろかず(1951-)の新作絵本を、少し遅くなったが手に入れて読む。完全オリジナル作品で、大人向けであることからも期待がたかまる。 はじめはストーリーを中心に足早に読んでしまったので、絵もいいし、展開も面白いにもかかわらず、なんとなくふ…

女王の交代

昨秋から、クモを観察するようになった。職場近くの林には、ジョロウグモのクモの巣があちこちにかかっている。自分の巣にぐるぐる巻きに絡まったときに脱出できるか、とか無慈悲な実験をやってみたりした。冬が深まると、巣の数は減っていくのだが、大寒波…