大井川通信

大井川あたりの事ども

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

こんな夢をみた(ハヤブサとヒナ)

リビングをのぞくと、片隅に丸いクッションみたいな大きな鳥の巣が落ちている。自分の家という設定にはなっているのだが、例によって夢の世界なのだから、部屋の様子も家の間取りも実際とはかけはなれている。しかし、例によって夢の中の自分は、そのことを…

『地元経済を創りなおす』 枝廣淳子 2018

面白かった。今まで読んだ街づくりや地域経済の本の中でも、群を抜く面白さと説得力がある。 かつての地域おこしは、企業を誘致したり、補助金を受け入れたりすることが中心だった。とにかく地元にお金をもってくればいいと。しかし、そのお金がすぐに地方か…

図書館で本と出会う

『市民の図書館』の中に、こんな記述があった。誰もが、図書館の書棚で無名の著者の書物に出会い、その面白さに驚いたことがあるだろうと。 たしかに図書館では新刊書中心の書店には置かれていない本があって、しかも無料で気軽に借りることができるから、読…

『市民の図書館 増補版』 日本図書館協会 1976

薄い新書だが、日本の図書館の方向を決定づけた重要な本らしい。増補前の初版は1970年の刊行。これを読んで、二点気づいたことがあった。 一点は、自分が半世紀以上生きてきて、その間に時代の大きな曲がり角を経験しているのだな、ということ。もう一点は、…

千日の行

少し前に記事の総数が千を超えたけれども、今回が毎日書き始めてから連続で千日目の記事となる。修験道の過酷な修行に千日回峰行というものがあるが、千というのは、人が日常的に経験できる数字の中で、上限に近い単位なのかもしれない。 厳密にいえば毎日書…

目羅博士vs.美学者迷亭

漱石の『吾輩は猫である』を読んでいたら、美学者の迷亭が、こんなエピソードを話している場面があった。 散歩中、心細い気持ちになって、ふと気づくと、「首掛けの松」の下に来ていた。昔からの言い伝えで、この松のところにくると誰でも首をくくりたくなる…

『月』(辺見庸 2018)を読む・続き

前回、この小説が、言葉をもたない重度の障害者の存在に肉薄するものでないことを指摘した。そのために、この小説においては、意識や人格の有無が単純な二分法でとらえられていて、それは「さとくん」の殺人の論理と少しも変わっていないのだ。 著者の無自覚…

『月』( 辺見庸 2018)を読む 

読書会の課題図書。いつものように会合の数日前に読み始めて、ぎりぎり読み切るつもりだったのだが、冒頭を読んで、今回ばかりは参加を断念しようと思った。とびきり読みにくい上に、そういう叙述を選ぶ著者の意図に、まったく賛成できなかったからだ。 しか…

カエルを食べてしまえ!

近ごろ読んだ英文のビジネス書の標題。やるべきことのリストの中で、一番やりたくないことから片づけなさいという趣旨。よく言われていることだが、醜いカエルに手を伸ばしてたべてしまおうという、おぞましい比喩にしたところに手柄がある。 そういえば、気…

革の財布を父の日にもらう

長男が、大学卒業後三年近く勤めた会社を退職して、就職活動を始めた矢先、コロナ禍が発生した。あれよあれよという間に、リーマンショックを超える本当に百年に一度の大不況に突入してしまった。さすがにこんな事態がわかっていたら、前の会社は辞めていな…

ゆめのきゅうさくのごとある

夢野久作というペンネームが、博多の方言に由来することは、比較的有名な話だと思う。二葉亭四迷という筆名の由来が「くたばってしめえ」であることほどメジャーではないかもしれないが。「夢の久作」が「夢想家、夢ばかり見る変人」の意味であることはネッ…

『海と毒薬』 遠藤周作 1957

読書会の課題図書で読む。再読。 第一章のエピソードで、勝呂医師の指先に「金属のようにヒヤリとした冷たさ」があったとある。生体解剖事件に関わった冷酷な医師であることを匂わせるうまい伏線だとは思うが、全編すこし図式的に作りこみ過ぎているような気…

ジュニア版日本文学名作選『怪談』 小泉八雲 1965

子どもの頃にお世話になった偕成社のシリーズで、小泉八雲(1850-1904)を読む。「耳なし芳一」も「ろくろ首」も「茶碗の中」もとてもいい。懐かしいだけではなくて、とても面白く色あせていない。「盆踊り」について書いたエッセイも読ませる。 西欧人から…

『つながる図書館』 猪谷千香 2014

図書館司書の勉強をした関連で手にした本。いくつかの実際の図書館のレポートと、図書館をめぐる動向とが、コンパクトにまとめられている良書だ。 今、図書館は大きく変わりつつある。身近な図書館を利用しているだけでは、そこが先進的な取組みをしている図…

『教師崩壊』 妹尾昌俊 2020

公教育の現状の全体について、バランスのよい説得力のある議論を示している。誰もが気楽に手に取ることができる新書版では、ほとんど初めてのことではないか。 データとファクトに基づいて議論をすすめているが、特別な情報を使っているわけではない。少し注…

『夢野久作 迷宮の住人』 鶴見俊輔 1990

『ドグラ・マグラ』を一気に読み切った余勢をかって、15年前に購入したこの本の文庫版を読んでみた。 夢野久作(1889-1936)に関する諸事実をひととおりおさらいするのにはよかったが、夢野久作や『ドグラ・マグラ』のことが深く分かった、という気はしなか…

イタチ木登り、タヌキ危険、カッコウ鳴く

職場の窓から、目の前の林を眺めていたら、高い枝をイタチが伝っている。すぐに方向を変えて、根もとまで走りおりてしまった。あわてて外に出てみると、ずっと先の茂みがゴソゴソしている。その神出鬼没ぶりに驚いた。 また別の日。通勤の車で、街中のコンビ…

『ドグラ・マグラ』 夢野久作 1935

読書会の課題図書で、およそ40年ぶりに再読する。ところどころ覚えていて、大学生の時、読み通したことは間違いない。いつか読み直したいと思っていたので、飛び入り参加となる会のために、かなりのスピードで一気に読んだ。 期待以上に面白く、よくできた重…

自分の猫が幸せならそれでいい

直近の芸能ネタにこんなのがある。ある芸能人が、仕事も順調で、誰もがうらやむ年下の美人女優と結婚し、子どもにも恵まれたにも関わらず、自分の性癖からなのか複数の浮気が発覚し、成功を失いかけている。 ネットでの芸能ニュースにはたくさんの読者のコメ…

『尾崎放哉句集』 岩波文庫 2007

詩歌を読む読書会の課題図書。こんなことがなければ手に取る本ではないと思いながら読んでみると、意外な発見があった。 自由律俳句で有名な尾崎放哉(1885-1926)は、東京帝大法科卒のエリートで、保険会社に入社するも挫折し、結核を患ってのち、小豆島の…

カマドウマとゲジゲジ

子どもの頃使っていた小学館の『昆虫図鑑』を手に入れてページをめくっていると、昔実家でよく見かけた虫のことを思いだした。 よくトイレで見かけたカマドウマ。バッタの仲間だろうが、羽のない背中が丸く盛り上がっている姿は不気味で、好きになれなかった…

マイクロツーリズムについて

今度のコロナ禍で、観光業はもっとも大きな打撃をうけているだろう。ある観光会社の代表が、少し前にニュースで「マイクロツーリズム」について話しているのが耳に残った。ネットにもその話題は出ているようだが、僕が理解した範囲を書き留めておこう。 今後…

ある教育メソッドの謎

今は、子どもたちに、協働して一つのことを考えさせたり、話し合いを通じて新しいことを発見させたりする授業がはやっている。これからの時代は、そういう学びの力が必要になるからだという。 そのための授業づくりの手法として、こんな形式的なやり方がある…

ひろちゃんの旅立ち

少し前に娘さんから、ひろちゃん(吉田弘二さん)の容態が思わしくないとのメールを受ける。今年になってから、コロナ禍で訪問を遠慮していたのだが、この数か月でだいぶ体調が悪くなったそうだ。それでこのところ何回かお見舞いにうかがって、先週の日曜日…

ラーメン屋の味

僕は、カービィのように食べ物を何でもおいしく吸い込んでしまう人間なので、たいていの食べ物の美味しいか不味いかはあまり気にならない。 うどんとか、カレーとかの味に、そんなに大きな差があるとは思えない。とびきり美味しいとおもうこともあるが、たぶ…

同期会というもの

僕が、大学を出て最初に就職した会社にも、同期会というものがあった。4か月にわたる研修期間中、共同生活をしたり、販売実習で班別の競争をしたりで、同期の30数名のきずなは深まった。 おそらく研修担当の職員たちの示唆があったのだろうが、自主運営の同…

誕生日の思い出

今日は、姉の誕生日だから、お祝いのメールをする。 昨日が母親の命日にあたり、姉にとっては、長年苦楽をともにしてきた母親が、自分の還暦の誕生日の前日に亡くなったのだから、どんな思いがあったのだろうか。姉はその年度いっぱいで会社員人生を全うして…

論理的ということ(その7:作文と大井川歩き)

日本人が例外的に論理性を身につけるための、ほとんど無意識に行われている方法について書いてきた。今回の発見はこれだけなのだが、ここで終わってしまっては、僕の作文らしくないだろう。 獲得したものは、失われていく。どんなに論理を誇った人も、やがて…

論理的ということ(その6:広松少年)

理路整然と、論理的に話せる人に対しての疑問から始まって、あれこれ書き綴ってきた。他の人から見れば、もしかしたら僕自身も理屈好きな人間に見えるのかもしれないが、僕は、彼らとは全く違う。違うからこそ、その違いが気になって、彼らのことが謎だった…

論理的ということ(その5:少年少女世界の文学)

僕が子どもの頃、隣の従兄の家にあった全50巻の「少年少女世界の名作文学」シリーズに親しんでいたことは以前書いた。僕の場合は、ごく一部のひろい読みである。しかし懐かしいので、そのうちの二冊をネットで手に入れて、自分の書棚にならべて喜んでいる。 …