大井川通信

大井川あたりの事ども

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

6月30日

6月は、1日に僕の緊急入院と命の危機から始まった激動の一か月だった。入院中はいうまでもなく、16日に退院してからの後半も、職場復帰やリハビリに神経を使い、仕事でも私生活でも新たな再出発に向けて動き始め、中身の濃い毎日だった。 この先どれくらい生…

新聞をやめる

今年度は定年退職の年で、それなりの感慨はあったけれども、あと5年間は生活のために同じような仕事を続けるつもりでいた。ところがコロナ体験で、この貴重な期間をもっと別のことに使いたいと思うようになった。 そうなると今の仕事とは、あと九か月で完全…

病室で考えたこと

病室で死に向き合った経験については書いているけれども、回復の兆しが見えたあと、今後の人生についてじっくり考えた内容については、まだ書いていなかった。それは、自分の今後の振舞いや生き方に関わってくることなので、具体的には書きづらいところがあ…

仕事をめぐって

「仕事大全」ファイルを通して、新しく気づいたことがある。 僕は長い間、仕事は、生活のためにやむを得ず、仕方なくやっているものと思ってきた。だから表面的にはともかく、内心ではそこまで熱心でも一生懸命取り組んでいたわけではない。もちろんそんな気…

「仕事大全」ファイルを作る

今回の整理で、何よりもまず手をつけたかったのが、仕事関係の資料の整理だった。今年度定年退職を迎えるのだが、年金が出るわけでもなく何かの仕事を続けなければならない。あちこちに散らばって保存されている資料をまとめることで、いったい自分が仕事と…

老前整理を始める

コロナ療養でホテルに入る前、最低限これは残したくないと思いついたモノの処分をした。ホテルで気にかかって、長男に書き残したメモの大半も、自分のモノの保存や処分に関することだった。生命の危機に遭遇すると、自分と所有物との間には、ごく一時的な関…

五月雨忌

先月、作家の忌日を調べる機会があったが、その時、五月雨忌というのが目についた。シンガーソングライターの村下孝蔵(1953-1999)の命日を、最大のヒット曲「初恋」(1983)の冒頭の歌詞「五月雨は緑色」に因んでそう名付けられたらしい。 純朴そうな人柄…

九ちゃんとボンちゃん

猫たちにとっては、唯一のご主人様である妻がいなかった18日間は、ずいぶん様子がちがっていたそうだ。それでもその間、自宅にひとり残され、親たちの容態の急変に翻弄されていた長男にとっては、猫たちの存在はずいぶんと頼もしかったらしい。 特に、九太郎…

温泉三昧

病院ではあちこちに点滴をさされたが、点滴を入れにくい血管らしく、看護師さんたちもみな苦労していた。ひどいかゆみで皮膚をかきむしったりもしているから、僕の腕には小さな傷がたくさんある。 それで、温泉に入って、傷をいやそうと考えた。幸い地元には…

病院の窓を見上げる

入院中、窓の向うの風景が救いになったという話を書いた。一般病棟で自由に歩き回れるようになってからは、廊下の突き当りの窓から見下ろす交差点付近の街並みが、特に印象深い。病院を出たら、あのあたりを歩こうといつも思っていた。 というわけで、退院後…

『ワニくんのレインコート』 みやざきひろかず 1989 

【オンラインビブリオバトル プレゼン原稿】 皆さん、お元気ですか。僕は、運悪く一か月近く入院していて、先週ようやく退院したばかりのところです。一時は、相当悪くなって、半ばもうふだんの生活には戻れないという覚悟をしたくらいでした。ただ病気をし…

食べ放題で食べすぎる/読書会で言いすぎる

今回のコロナ騒動では、我が家では4人中3人が感染・発症し、ホテルに隔離されて、親二人が緊急入院するというダメージを受けた。 自宅では、濃厚接触者の長男と猫2匹の生活が1週間続いたあと、次の1週間は次男が戻り、次は妻、最後に僕と、毎週帰還者が加わ…

ていねいに生きる

医療費の公的負担の手続きのため、市役所と家とを往復した。申請書への添付書類として、住民票と世帯全員分の課税証明書がいるために、妻の所得申告や子どもの委任状の作成など、少しハードルが高かったのだ。 退院の時に、早めに手続きしてくださいといわれ…

五月雨に鳰の浮巣を見に行む

芭蕉にこんな句があることを、ごく最近知った。鳰(にお)とは、カイツブリのこと。芭蕉の時代にすでに、カイツブリの浮巣(うきす)をみたり、卵がかえってからのヒナの成長を楽しんだりする習慣があったのだろう。 病院から久しぶりに家に戻って、家の回り…

新型コロナウィルスに感染する ⑰(退院)

いよいよ待ちに待った退院の朝。いざその時になると、マリッジブルーではないけれども、手放しでは喜べない気持ちになる。献身的な治療やケアに身を任せていい立場を離れれば、世間の冷たい風にもさらされることになる。 例の病気の感染者に対しては、偏見や…

新型コロナウィルスに感染する ⑯(看護師さんたち)

コロナ病棟で、次第に回復してくると、僕はお世話をしてくれる看護師さんたちに、邪魔にならない範囲で声をかけてみることにした。病状が悪いときでも挨拶やお礼の言葉を欠かさないのは自分の意地みたいなところがあるが、いくらか余裕が出て来たあたりのこ…

新型コロナウィルスに感染する ⑮(窓と鳥)

ホテルでの生活の時、窓から見下ろす街中の風景が、心をなぐさめてくれた。コロナ病棟でのつらい治療の時も、四階にある病室の窓からの見覚えのある景色が、だいぶ救いになった。そこには、僕がよく車を走らせた国道や、家族ででかけたショッピングモールが…

新型コロナウィルスに感染する ⑭(歯肉炎が治る)

この病気に感染して、二つほど目に見えて改善したことがある。 7日間のホテル生活の後半はほとんど食欲がなかったし、11日間の隔離病棟での治療を終え、一般病棟に移った時には、7キロ減の72キロの体重しかなかった。この25年では見たことのない数字だ。その…

新型コロナウィルスに感染する ⑬(病院食)

ホテルでは、目一杯のお弁当が毎食出て、体調の悪化とともにほとんど食べられなくなった。無症状の待機者を想定してるみたいだから、それもやむを得なかったろう。 病院では、弁当容器入りの病院食だ。お粥に、梅干しソースをたらす。朝なら、オカズが一品。…

新型コロナウィルスに感染する ⑫(回復期)

6月5日 入院5日目 長男に体調は良くなりつつあるとメールする。看護師さんから、ベッドの上で、身体を拭いてもらったり、頭を洗ってもらったりする。 6月7日 入院7日目 3日以来のレントゲンで、主治医から初めてはっきり肺がかなり改善しているという診断を…

新型コロナウィルスに感染する ⑪(自分を閉ざす/自分を開く)

今はスマホや携帯があるから、隔離された重症の患者のもとにも、家族から励ましのメールなどが入ってくる。それが力になるケースもあるだろうが、僕の場合とにかくきつかったし、独りで痛みを受け入れ、死の運命を受け入れる覚悟を固めていたので、そのこと…

新型コロナウィルスに感染する ⑩(僕の悪夢/妻の悪夢)

治療がきつかった時期、意味不明の悪夢にうなされた記憶が残っているが、はっきり覚えているのは、一つだけだ。 舞台は職場の事務所だが、昔の学校の木造校舎みたいな古くさい作りだ。メンバーも微妙に違う。直接の部下にあたる人がいて、彼のモデルは明らか…

新型コロナウィルスに感染する ⑨(僕の神々)

夜中症状の悪化に苦しんでいるとき、一度だけ、僕は自分の神々たちを思い浮かべたことがある。精神的に一番ダウンしているときだったのか、その中でエアポケットのように心に一瞬余裕が生まれたときだったのかは、今となってはわからない。 病院があるのは、…

新型コロナウィルスに感染する ⑧(生命の倫理)

今の病院に入院させてもらって治療が始まった時は、とても嬉しかった。若い看護師さんの中には、重い病状の僕に「自覚症状」がないのが怖かったと後から教えてくれた人がいた。もちろん辛くなかったわけはない。つきっきりで治療してもらえることが、とにか…

新型コロナウィルスに感染する ⑦(かなり悪くなる)

一般的にいうと、発症から10日くらいで一定期間発熱がなければ、コロナウィルスは消滅したと判断されるらしい。現に軽症の次男は、ホテル泊10日目で無事解放されている。発症から一週間から10日くらいの間に分かれ目があるようで、その時点で食欲が無くなっ…

新型コロナウィルスに感染する ⑥(救急車で搬送される)

7日目の朝になって、前日まで95をキープしていた酸素飽和度が80代にまで落ちた。体温は38.1℃。看護師からの連絡で、入院を検討することになったという。 あわてて、滞在中初めてシャワーを浴びる。それまで身体を洗う気力もなかったのだ。しかし、コロナ病棟…

新型コロナウィルスに感染する ⑤(倦怠感の脅威)

ホテルには、時間つぶしにと思って、何冊かの本を持って行った。とくに今読み続けている今村仁司先生の遺著である『社会性の哲学』は、晩年に先生が自らの死と向き合って人間存在の根本を論じた本だから、コロナ禍の監禁生活の中で読み通すのがふさわしい本…

新型コロナウィルスに感染する ④(ホテルでの日々)

ホテルにつくと、マイクロバスから一人ずつ呼び出され、裏口の受付で防護服のようなものを着た担当者から書類と部屋の鍵を渡される。自分の部屋のあるフロアには、エレベーターホール付近に長机があり、水やスポーツドリンクなどが自由に取れるようになって…

新型コロナウィルスに感染する ③(ホテルの迎えが来る)

妻から二日遅れて、僕と次男がホテルに缶詰めになることになった。妻の出発には、二人はPCR検査で立ち会っていない。物々しいバスがくるから、できたら家から離れたところで待ち合わせした方がいいというのが、妻からのアドバイスだった。 それで近所の街道…

新型コロナウィルスに感染する ②(濃厚接触者の認定)

今回は、僕の住居地の保健所が、感染にかかる濃厚接触者の認定をしたようだ。 長男は、同居の家族として、直ちに濃厚接触者とされたために、2週間の自宅待機の指示がでた。ホテル療養なら、発症から10日で自由の身になれる可能性もあるので、解放の日付に前…