大井川通信

大井川あたりの事ども

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『アメリカ現代思想の教室』 岡本裕一朗 2022

とても読みやすく、かつ良い本だった。図表をつかって議論を思い切って単純化しているが、浅薄な印象を受けない。それは、著者がまとめようとする議論が、現在の喫緊の問題とつながっていて、それが不透明な未来へと直結しているからだろう。つまり、アクチ…

あと二か月

定年まで、あと二か月となった。退職金の請求手続きをしたり、正式な退職の通知が来たりして、それらしい雰囲気にもなってきた。ただ、もう少ししみじみとした淋しい気持ちになるのかと思ったがぜんぜんそんなことはなかった。 定年となっても、あと5年間は…

『歴史探索の手法』 福田アジオ 2006

いかにも面白そうな本だと思って、出版当時買って少しだけ読んでいた本。ちくま新書の一冊だからすぐに読めそうなものだが、積読癖が災いして16年経ってようやく通読した。期待通りの面白さだった。 著者がたまたま見つけて気になった「岩船地蔵」(舟形の石…

ベンヤミン読書会顛末

今月の吉田さんとの勉強会では、「ベンヤミン読書会顛末」と題して、読書会メンバーへの案内文(「なりきりベンヤミンの会」)を頭に、報告用の原稿代わりに書いたブログ記事三本(「ガレキの拾い方」「希望をもつ方法」「近所を歩くということ」)と読書会…

影絵の手

時々、ショッピングモールのガチャガチャ(ガチャポン)のコーナーで足を止めて、見入ってしまうことがある。それほど今のガチャガチャの中身は多彩で、アイデアの宝庫だ。よくこんなものを思いつくな、と思えるものもあれば、同じ発想を踏襲しているものも…

『スペースを生きる思想』 粉川哲夫 1987

20代の頃、粉川哲夫(1941-)の批評が好きだった。粉川の批評本がさかんに出版されたのは、1980年代で、それ以降、ほとんど忘れられた存在になってしまったと思う。 日本の批評家を振り返る読書をする中で、久しぶりに粉川の本を手に取ってみる。初めは少し…

「山はいいよ、山は死なないから」

山川菊栄『わが住む村』から。村で育った昔の娘さんたちにとって、山へ焚き木をひろいにいくことは楽しい仕事の一つで、友達といっしょに山に遊びにいくような気分だったという。 「山はいいね。山に行って燃し木を掻(か)いてくるぐらい楽しみなものはない…

『わが住む村』 山川菊栄 1943

とても良い本だった。漠然と、女性社会主義者として高名な山川菊栄(1890-1980)によるものだから、もう少し堅苦しく図式的教条的な内容なのかと予想していたが、地に足のついた視点で、血の通った平明な文章で書かれていることに感心した。 それは、1936年…

試験当日

試験会場は、九州産業大学。先月は北九州市立大学だったけれども、大学のキャンパスや校舎に入れるのは、学生に戻ったようで気分的にもリフレッシュできる。JRの車中でテキストに熱中したあまり一駅乗り過ごしてしまい、タクシーで大学に向かう羽目にはなっ…

試験前日

今回の資格試験は、試験範囲になじみがあるし、合格点も低いと完全に油断していた。実質的に勉強を始めたのが今週に入ってからだから、テキストの一巡目の勉強の残りが今日の午前中までかかってしまい、二巡目の暗記とまとめが昼過ぎからになってしまう。こ…

情事をどう浄化するか

ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』を読んで、小説としての面白さというよりも、もっと別のことを考えさせられた。 人間の男女のこと、性愛をめぐることに関しては、つつきだせばいろんなパターンなり、可能性なりがあるだろううが、どれも客観的…

『存在の耐えられない軽さ』 ミラン・クンデラ 1984

読書会の課題図書。ミラン・クンデラ(1929-)は二作目だが、前作よりもかなり読みにくい。自分は本当に小説には向いていない人間だなと実感する。けれど読み終わると、読後感は決して悪いものではなかった。 作者とおぼしき「語り手」が終始前面に出てきて…

こんな夢をみた(怪鳥襲来)

よくあるように、地理的には実家の近くの道が舞台である。風景なり様子なりがそのままというわけではないのだが、僕の中で、あそこだという見当識が働く場所なのだ。 夕方だろうか。道を歩いていると、少し先の電線の上あたりに、大きな鳥の影が見える。図鑑…

一代終えるのは「やおいかん」

タリーズコーヒーで例のごとく勉強していると、となりの席に男性が座った。髪が少し伸びていて、やや太めのラフな恰好をしたおじさん、といっても僕よりはだいぶ若いだろう。その向かいには同じくらいの年かっこうの女性が座って、二人の会話はいやでも耳に…

まどマギの別れ

職場の同僚のヘザーさんが、急に日本を発つことになった。ヘザーさんが、来日したのは6年ほど前で、僕とは仕事上特別なかかわりがあったわけではないし、この間3年以上職場が変わって顔を合わさない時期もあった。 ただ彼女が、アメリカにいるときから日本…

馬柱とは何か

競馬に触れるようになって、馬柱という奇妙なコトバを知った。 馬柱ってなんだろう。「人柱」なら、築城や架橋や堤防工事のときの神にささげる生贄のことだから、少し不穏で残酷な匂いがする。レース中の事故で亡くなった馬を祀った慰霊碑みたいなものだろう…

さて、次の試練は

ベンヤミンの読書会をなんとか乗り切ったと思ったら、次の資格試験の受験日が一週間後に迫っている。今年度は区切りでいろいろ詰め込もうと計画しているのだから、しょうがない。 今度の試験は、とくに難しいというわけでないので、先月の登録販売者の試験が…

考えることと振舞うこと

読書会での報告が無事終わった。9月の終わりにこの話をもらった時には、ちょうど人生の区切りの時期だから、読書や思索の面での総まとめとなるようなことができたらと思っていたが、準備もはかどらず、とてもそんなふうにはならなかった。それでも、会のメン…

近所を歩くということ

大井川歩きを自覚的に始めたころ残したメモがあるが、ベンヤミンの名前は出ていない。けれども、あえて名前をださなくとも、彼の考えや感覚は自分のみについてしまっているともいえるかもしれない。 過去のガレキの山の中から、過去の断片を拾い集めて救済す…

希望をもつ方法

次に最晩年の『歴史の概念について』からの引用。「人類は解放されてはじめて、その過去を完全なかたちで手に握ることができる・・・人類が生きた瞬間のすべてが、その日には、引き出して用いうる(引用できる)ものとなるのだ」 この原稿は、ベンヤミンが「…

ガレキの拾い方

ベンヤミンの勉強会の準備が難航している。少しでも自分なりのベンヤミンの理解を示せればという野心をもっていたが、僕がもっているのはそれこそ断片的なイメージに過ぎず、とても専門家の前に提示できるようなものではない。そもそも参加者が聞きたいのは…

ボンちゃん一周年

今日で猫のボンちゃんが家族になって、ちょうど一年がたった。 先住猫の九太郎との関係は、この一年で思ったほどには改善しなかった。たしかに今では、九太郎がうなってボンちゃんを威嚇する場面は、だいぶ減ったような気がする。九太郎の攻勢が原因で二匹が…

うしろすがたのしぐれてゆくか

姉が定年退職後にちょうどコロナ禍にぶつかってしまい、家籠りをしている間に、山頭火のファンになっていた。山頭火といえば、父親が好きだったことがあり、子どもの頃父親から教わった記憶がある。 父親は僕と同じ様に熱しやすく冷めやすい人だったから、山…

家族の星座

二年ぶりに東京から姉があそびにきた。姉には両親の世話を最期までしてもらったから、頭があがらない。 姉のことを人に紹介するときに、手っ取り早いエピソードは、例のあの宗教団体に関連したことだ。姉は、短大卒業後、某損害保険会社に就職した。結局、定…

丘陵を歩き続ける柄谷行人

新聞購読をやめてしまったけれども、気になる記事はある。たとえば、年末恒例の書評委員による1年間の出版の総まとめみたいな記事。昨年柄谷行人が面白いことを書いていたから、今年の彼の発言がなんとなく気になっていた。 今年の「書評委員この1年」とい…

舞台と映画

ベンヤミンのアンソロジーを読んでいて、有名な「複製技術時代の芸術作品」を再読した。以前読んだときは、そこまで強い印象は受けなかったが、今の僕にはとてもいい。マルクス的な階級闘争史観を骨格にさまざまな視点とアイデアがギュッと詰め込まれていて…

猫のけんか

職場の窓から見える林には、ときどき近所の猫たちの散歩する姿が見える。いろいろな柄がいるし、大きいのも小さいのもいる。 今日突然、大きなうなり声が聞こえたので、窓の外をのぞくと、二匹の猫が向かいあっている。鳴いているのは茶トラの猫で、相手の白…

こんな夢をみた(悪鬼のような友人に追われる)

友人の家に遊びに行き、部屋で本を読んでいると、いつのまにか友人が近くに立って恐ろしい形相で見下ろしている。なんとか彼の手をすり抜けて部屋の外に逃れると、夜なのにどの部屋も明かりが消してあるので、手あたりしだい電灯をつけて回る。 そこにたまた…

気を取り直してヒラトモ様・ミロク様に初詣する

腰痛も峠をこしたようで、朝暗いうちに起き出して宗像大社に詣でる。まだ車も人もそこまで多くない。コロナ禍以降境内から締め出された夜店の数は少なく、かつて調査した東京ケーキの屋台も来ていない。次男が特等を当てたこともある新春の福みくじを二本引…

手作り絵本「かさぼとけさま」あとがき

駅に近い田んぼの一角に、石材を無造作に寄せてコンクリートで固めた場所があって、以前から気になっていました。よくみると、六面に地蔵のようなものが彫られた石の塔身が二つあって、かたわらには大きな丸い石がたてかけてあります。いわゆる六角地蔵とい…