大井川通信

大井川あたりの事ども

2023-01-01から1年間の記事一覧

『文庫の読書』 荒川洋治 2023

僕にとって、荒川洋治(1949-)は名前は特別だ。学生時代に、現役の若手の詩人の中で、圧倒的な言葉の力を感じさせられた存在だからだ。いろいろ読みかじってはみたが、処女詩集『娼婦論』(1971)の早熟の天才ぶりには、言葉を失うしかなかった。この原体…

『ふるさとの生活』 宮本常一 1950 

あらためて名著『失われた日本人』を読んでみたら、とてもよかったので、手持ちの宮本常一の本から、読みやすそうな本を手に取った。もともと関心があったためか、書棚の奥に積読本が何冊もあることに驚いた。 戦後すぐに子どもむけに書かれているが、戦後新…

『仏教と事的世界観』 廣松渉+吉田宏哲 1979

廣松渉の忌日に、今年は、この薄い対談集を手に取った。朝日出版社の派手な装丁のエピステーメー叢書の一冊で、1980年前後の時代がしのばれる。 たまにページをめくることがあっても、読み通したことはなかった。若い頃に比べれば、仏教や宗教へ関心をもって…

玄関ポストを修繕する

小学校の頃、親に毎日つけさせられていた日記の中で、「ぼくは技師になりたい」と書いていたのが記憶に残っている。技師という言葉は工場勤務だった父親の影響だろうが、僕はそもそも工作が得意だったのだ。小学校の教科図画工作も嫌いではなく、成績もよか…

パソコンを購入する

かねてから情報弱者を抜け出したい、という思いがあるが、なかなかうまくいかない。今年に入って、スマホを最新のアイフォンにかえたが、結局今まで通りの使い方しかしていない。必要があってラインだけは入れたが、全然活用していない。 おそらく原因はここ…

影につかまれる

通勤の途中、駅前のスクランブル交差点を歩いているとき、いきなり、背後から抱き着かれて、左の二の腕をつかまれたような気がして、ぞっとした。 その瞬間、僕の右側をかすめて自転車が追い越していったのだが、その自転車本体の気配に驚いたわけではない。…

『ダロウェイ夫人』 ヴァージニア・ウルフ 1925

一昨年、読書会でヴァージニア・ウルフ(1882-1941)の『オーランドー』を読んで面白いと思った。その時買って積読になっていたこの文庫本を今頃になって手に取ったのは、知人の英文学者高野さんが今ウルフをまとめて読んでいると聞いたからだ。 読み始める…

カンタロウさん一家

昼休み、東公園の中を歩いても、ほとんどカラスの気配はない。昨日のカンタロウとの出会いは幻だったのか。 そう思いつつ、仕事帰り、昨日カンタロウが現れた公園の入り口近くにさしかかる。当然ながら、偶然の出会いはそうそうあるわけではなかったが、念の…

カンタロウと再会する

外田さんから、カラスのカンタロウのことを尋ねられた。カンタロウにはしばらく会っていない。吹雪の中で鳴きまね合戦をしたのが、カンタロウとのクライマックスだったような気がする。 5月に入っていくつか大変だったことのメドがついて、少し気持ちに余裕…

小倉でB級グルメする

安部さんの文集の件で、仕事を早く切り上げて、小倉に外田さんに会いに行く。早く着いたので、京町まで歩いて、娘娘に昼食を食べに行く。肉焼き飯を注文。いい年をして、こんなカロリーの高そうなものを昼間から食べていいのかなと思うが、他に食べたいもの…

『ギタンジャリ』 タゴール詩集 1912

インドの詩人タゴール(1861-1941)の英語版詩集の翻訳(風媒社刊)を読書会で読む。タゴール自身が平明な英語に訳したものなので、とても読みやすかった。 ただ、時代も文化も違い、なかなか詩として面白いものが見つからず、どうなることかと思ったが、最…

積読街のビル看板

このブログでは、「積読」という用語の登場頻度が多い。あまり一般的な言葉ではないだろうから、多少後ろめたく思ってはいるのだが、買った本をすぐに読むことがまれな僕のふるまいを、これ以上便利に表現する言葉はないのだ。 そんな僕には、ねがったりかな…

法学部・経済学部・商学部

宮本常一の名著『忘れられた日本人』の中に、とある「世間師」(奔放な旅を経験しているお年寄)の印象的なエピソードが記されている。彼は名を左近熊太といい、現在の河内長野市の滝畑の出身。明治になって22歳の時に西南戦争(1877)で徴兵されるまで、字…

「思想家の散歩区域」 萩原朔太郎『虚妄の正義』(1929)より

我々の思考にして、漸く経験的なものを離れ、純粋に抽象的なものに深入りをしてくるならば、その時、先ず我々は一通りの学者である。しかしながら学者である。もはや思想家ーその言語の響に於ける、人間的な意味を考えて見よーではない。我々にして学者でな…

こんな夢をみた(村の賢人の新展開)

村の賢人原田さんが、またまた驚くような新展開をみせた。「哲学入門」というタイトルの本を出版したのだ。中身を見ると、森林の木を伐採したらどうなるか、というような具体的な問題に対して、子どもたちに賛否両論を議論させたうえで、賢人の考えを述べる…

『「現金給付」の経済学』 井上智洋 2021

何か月も読みかけのまま手元に置いていたが、ようやく読了。世の中が不景気で先が見えなくなると、経済の議論がさかんになる。もう30年前以上になるが、冷戦終結とバブル崩壊の時がそうだった。ちょうど公務員試験の勉強で、経済の科目を一通り勉強したばか…

5類感染症移行!

今日で、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行となった。3月13日のマスク着用の見直し時も、多少の感慨があったが、今回は騒動の終息にむけての一つの区切りだから感慨もひとしおだ。 コロナ禍の本質だとか、様々な対策の巧拙、今回の措置の是非は問…

こんな夢をみた(忍軍)

僕は、忍者の一味だった。一味の首領は、女忍者で、仲間の中には裏切り者も交っているようだった。ただ、僕の忍びの技術は高く、もし攻撃されたとしてもそれを破るのはわけはないと思っていた。 ある時、女首領と僕、そして若い女忍者と三人が何者かに追われ…

結婚式乾杯挨拶

※以前の職場の若い二人の結婚式に招待され、乾杯挨拶を頼まれた。若年層が減り、結婚が減ったうえに式を挙げないケースも増えたから、結婚式に呼ばれる機会はめったにない。それでもスピーチの経験は何回かあるから、場の雰囲気はわかる。乾杯なら、スピーチ…

『ベンヤミン「歴史哲学テーゼ」精読』 今村仁司 2000

岩波現代文庫で出版された当時にすぐに読んだようで、読了日に添えて一言「よかった」とメモしている。今回23年ぶりに再読して、「さらにとてもよかった」と書き添えた。 薄めの文庫だが、第1部は「方法について」と題して、ベンヤミンの思考の方法について…

『競馬放浪記』 寺山修司 1989

今日は寺山修司(1935-1983)の亡くなった日だから、寺山の競馬の本を読む。寺山の忌日を意識したのは初めて。1983年の5月と言えば、よく覚えている。僕が大学4年生になって東経大の今村ゼミに通い出し、就職活動の足音が聞こえだしてきたころだ。テレビの…

安部さんの文集の準備をする

ゴールデンウイークはカレンダーどおりだが、長男が帰宅したり、知人の結婚式に出たりする以外特別なイベントもないから、時間はたっぷりある。カフェやファミレスにできるだけ長くいて勤勉な時間を確保するだけでなく、自室も整理して、自宅でも作業しやす…

次男の退職願

3月の終わりごろからまた次男の仕事の愚痴が多くなった。それだけでなく、睡眠不足だったり、吐き気がしたりしているという。 昨年八月に地元の職場に転勤したときにも、辞めたいという意思表示が強かったが、それは新しい環境への一種の拒絶反応であって、…

『からゆきさん』 森崎和江 1976

僕のような森崎さんの初心者には、少し意外な印象の本だった。文章が読みやすくて、ストーリーを追って読みを促されるような場面では、普通のドキュメンタリーを読んでいるような感覚がある。これなら一般の読書人の心をとらえることができるだろう。 と思う…

『忘れられた日本人』 宮本常一 1960

森崎和江の聞き書きを読んで、その魅力について考えたときに、次に読んでみようと自然と思いついたのが、この本だった。ずいぶん前に買って拾い読みはしていたのだが、通読したのは今回が初めてだった。通読して、解説で網野義彦が「最高傑作」とほめそやす…

痛みの連鎖

一か月ばかり、右足の膝のあたりに違和感がある。何かの拍子にちくりと痛むような気がして、歩くときに気になってしまう。普通に歩いていて実際に痛むようなことはないのだが、無意識に膝を気にしていて、それをかばっているのか、やや不自然な歩き方になる…

森崎和江を読む(勉強会レジュメ用編集版)

【『まっくら-おんな坑夫からの聞き書き』 森崎和江 1961】 どんな悲惨な労働や生活が語られていても、著者のインタビューを受けるのは、それをこなして生き延びてきた精神的な強者たちである。「その姿には階級と民族と女とが、虹のようにひらいている」女…

『いのちの自然』 森崎和江 2014

森崎さんの晩年に編集された詩やエッセイのアンソロジー。 以前、森崎さんの自宅前でたまたま挨拶すると、あがっていきなさいと声をかけられた。森崎さんは、不自由な足で玄関から道をはさんだ郵便ポストまで歩こうとしている時だった。 居間で一時間ばかり…

プチ大井川歩き

このところ足に違和感があって、用心して歩くのをひかえている。右ひざのかすかな痛みが続くから、それをかばって不自然な歩き方になってしまう。こうなると大井川歩きもご無沙汰になる。 通勤の電車の窓から、駅の近くの住宅街に気になるものを見つけた。背…

『日本断層論』 森崎和江・中島岳志 2011

日記をみると、僕は2012年の1月11日に、福岡女子大で森崎和江さんの講演を聞いている。その時、この対談本にサインをいただいて、宗像在住だというと気軽に「あそびにいらっしゃい」と声をかけてくれた。 その2年後の2014年3月24日に、隣町の里山を縦走して…