大井川通信

大井川あたりの事ども

『チベットのモーツァルト』(中沢新一 1983)にケリをつける

昨年で『構造と力』が出版40年ということだから、中沢新一のこの本も、すでに文庫化はされているが同じく出版されて40年を過ぎたことになる。 1983年は、僕も大学の最終学年になって、他大学の今村先生のゼミに参加したり、自分の大学で法社会学のドイツ語原…

覚苑寺本堂 山口県下関市(禅宗様建築ノート11)

禅宗には、江戸時代に遅れて伝えられた黄檗(おうばく)宗という宗派がある。それとともに黄檗様という新しい建築様式が中国の明から伝えられた。禅宗様は鎌倉時代に中国の宋から伝えられた様式だから、そこには400年をこえる時代差がある。 専門的な研究は…

『自負と偏見』 ジェイン・オースティン 1813

読書会の課題図書。これは僕が選んだもの。何年か前、職場の若いイギリス人の女性がオースティンのファンだと言っていたので、薄い英文の要約版で読んだことがある。面白かったので、原作を読みたかったのだ。実際にとても面白かった。 作中の名言を選ぶとい…

こんな夢を見た(猫の失踪)

飼い猫の九太郎がいなくなった。アメリカンショートヘアみたいな黒白の柄の短足マンチカンだ。ふだんは車にのせることはないのに、なぜかドライブに連れて来てしまい、逃げられたようだ。 九太郎にはGPSがとりつけてあるようで、腕時計型の受信機で、九太郎…

行橋詣で(2024年初詣)

いろいろばたばたして、10時半近く教会に着く。井手先生はスーツ姿だから外出の予定があるのだろう。しかし一時間くらいは話ができるそうで、ほっとする。 お供えの日本酒「剣菱」を奉納すると、井手先生が、あなたとは不思議なことがあると感心される。どう…

電車でたくさん間違える

行橋に年始の挨拶に行こうと思って、前日からネットで時刻表を調べる。この日は午後から小倉で読書会があるので、ある程度早く出たら午前中の訪問が可能だ。 運悪く雨で、荷物も重い。駅まで車で行き駐車場を利用することにしたが、乗車予定の電車は階段を駆…

ホテルで部屋を間違える

ホテルの宿泊で、またまた恥ずかしい失敗をしてしまった。 格安のビジネスホテルのフロントで、カードキーと部屋番号の描かれた紙片をもらう。フロントで聞いた「701号」を記憶していたので、その部屋の前に行くと、ストッパーが挟まれて部屋のドアが閉まっ…

『構造と力』(浅田彰 1983)を文庫本で読む

昨年末、浅田彰の『構造と力』が出版後40年で、初めて文庫化された。それで、年末年始休みには、この本をはじめとする当時の現代思想ブームの本を読み直してみたいと考えて、なんとか『構造と力』だけは三が日で読み終えた。 今では思想書が文庫になるのは珍…

なんもかんもたいへんな世の中は続く

元日に北陸で大きな地震が発生したが、二日には羽田で旅客機の爆発事故が起きている。ニュースでは「火災」と速報されたが、映像を見ると滑走路で着陸した大型ジェット機が走りながら大きな火柱をあげている。 なんもかんも大変な世の中はつづいていくが、そ…

功山寺仏殿 山口県下関市(禅宗様建築ノート10)

大晦日の日に、功山寺仏殿と再会する。僕と付き合いが一番濃密な禅宗様建築は、言うまでもなく実家近くの正福寺地蔵堂だが、ドラマチックなエピソードでは功山寺仏殿に軍配があがるかもしれない。 僕は子どもの頃、全国各地の国宝禅宗様建築の写真をあきもせ…

大晦日に一人で宇部の街をさまよう

ふとした気まぐれで、大晦日に一人で他県のビジネスホテルに泊まることになった。何日か前、新しい年の手帳の使い方を考えているときに、今年はしっかり読了本や絵本、映画・ビデオ(いつもはまったく見ないが)のリストを作って、それを励みにどれも100…

『日本の建築家解剖図鑑』 二村悟 2020

エクスナレッジは、素人の建築好きが手に取れるようなガイドブックを安価で提供してくれるありがたい出版社だ。同社出版の本書は、辰野金吾から黒川紀章までの63人建築家を見開き二ページで紹介している。 まずその建築家のキャッチコピーと似顔絵と業績の紹…

遠山を眺望する

東京に帰省すると、この土地にとって富士山(3776m)がいかに大切な山であるかわかる。子ども時代にそれに気づかなかったのは、高度成長期以降の公害の影響もあるのではないか、と近頃思い至った。規制前の工場の煤煙や車の排気ガスが空を汚し、眺望を妨げ…

『武蔵野風土記』 朝日新聞社編 1969

国立駅前ロータリーから南東方向に伸びる旭通の端に近いところにあるユマニテ書店で、とうとう目当ての本を見つけることができた。書名がわからずに探しあぐねていた本だ。実は相当前にこの書店で古びたこの本を見つけたことがあったのだが、おそらくその時…

丸山薫の秀作を「発見」する

下北沢の古本屋で、新潮文庫の『現代名詩選』(伊東信吉編 1969)3冊本を買う。若い頃新刊本屋の書棚でよく見かけていたが、早い時期に絶版になったものだろう。 1970年前後におそらく詩の本の出版ブームがあったと見えて、詩のアンソロジーや全集、双書の…

行橋詣で(12月)

ようやく風邪も抜けかかる中、小倉で時間調整して、午後一番に行橋へ。周辺のお寺や神社などに寄り道してから教会に着く。クリスマスに合わせたわけではないが、赤ワインならぬ赤霧島を持参する。 井手先生は、午後二時から出かけるとのことで、一時間みっち…

演劇人の従兄と話をする

ちょうど小劇場の歴史に関連する本を三冊読んだところで、演劇人の従兄と話をすることができた。にわか勉強のおかげで、相手の話を引き出すくらいのことはできたと思う。 視野が狭く引っ込み思案の僕が、かろうじて芝居を観たり、演劇ワークショップに参加し…

『目的への抵抗』 國分功一郎 2023

読書会の課題図書で新潮新書の一冊を手に取る。当代の人気哲学者だから、同じ読書会で扱うのも4冊目になるが、どうも僕は著者とそりがあわない。肝心なところで議論に大きな欠落というか死角があるのが気になってしようがないのだ。 本書は、高校生や大学生…

宮国忠広さんと深瀧庸平さん

大学時代にあまりはじけることがなかった僕にとって、20代後半、東京郊外の学習塾の講師で過ごした三年間が、気楽で自由な学生生活を取り戻したみたいな貴重な時間だった。ある程度のお金と自由があったし、同世代の気安い仲間がいた。奥手ながらロックを聴…

金光教東京学生寮に頭を下げる

東京を出立の日の朝、国分寺駅前の姉のマンションを出て、朝の散歩をする。この旅行期間中風邪が抜けなくて、思うように予定はこなせなかったが、今朝はなんとかいい気分で朝歩きを楽しめそうだ。 駅からは、早稲田実業の生徒たちと一緒になる。昔は大学の近…

漱石先生ごめんなさい

東京都現代美術館の帰り、地下鉄東西線の木場駅で乗車したので、早稲田駅で途中下車してみた。漱石ゆかりの場所を見ておきたいと思ったからだ。 漱石山房の跡地は、今は漱石記念館になっている。文学館ではないから収蔵資料はあまりないのだろうが、晩年の漱…

二つの現代美術展

年明けから現代美術を専門とする外田さん、岩本さんとの読書会が始まるから、少しは肩慣らしになるかもと二つの現代美術家の展覧会に寄ってみる。 予想通り、というかそれ以上にひっかかるものが何もなかった。しかしこれには事情がある。風邪気味が続いて体…

『肉食獣』(柿喰う客)を観る

下北沢のザ・スズナリで劇団「柿喰う客」の芝居を観た。僕にとって柿喰う客は、純粋に芝居を楽しめる数少ない劇団の一つだ。実際に公演を観たのは、5本くらいだと思うが、どれもはずれがなかった。これも代表中屋敷法仁の芝居作りのセンスと力量によるものだ…

永福町商店街を歩く

父親には姉が二人いて、長女は赤坂、次女は永福町に住んでいた。それぞれ赤坂のおばさん、永福町のおばさんと呼んでいて、親しくしていた。どちらも商店街で小さな店を構え、赤坂は金物屋、永福町は古物商を営んでいた。 永福町のおばさんは、家もちかく、父…

「自他未分」と「現状優先」

今まで、他人の落とし物を拾ってあげることや、知人から借りた本やお金を返さないこと等、日常生活のなかでの僕たちの謎のふるまいについて、断続的に考察を続けてきた。 西欧由来の法体系(自他はそれぞれ別の独立した主体であり、それぞれモノを絶対的に支…

手袋をおとす

また別の日。 地元の駅前で、斜め前を歩いている女子高生が、そのさらに斜め前に落ちている手袋をさっと拾った。僕は、それを人が落としたところを見ていなかったし、歩道に落ちている黒っぽいものが手袋だとはすぐには気づかなかったから、今時落とし物を拾…

メガネをおとす

僕はいろいろな失敗をするが、まさか歩いていてメガネを落とすとは思わなかった。通勤電車で本を読むためにワイシャツの胸ポケットに100均で買った老眼鏡を入れている。その入れ方が甘かったのだろう。通勤路の公園遊歩道を歩いているとき、カチッという音が…

『飯島耕一詩集』 現代の詩人10 1983

詩というものは不思議で、なかなか一筋縄ではいかない。きっといいだろうと思って読んでもさほど面白くないケースが多いが、あまり根拠なく引き寄せられた結果、意外に胸をうたれることもたまにはある。 今回がそうだった。飯島耕一(1930-2013)は戦後詩の…

『日本の現代演劇』 扇田昭彦 1995

60年代以降の演劇の歴史を振り返るのは、菅孝行の自伝、佐藤信論についで、これで三巡目になる。以前目を通したことのある本だが、背景知識をある程度仕入れたうえで読むと、岩波新書の小著ではあるが、とてもよい本だった。 まず、1940年生まれの著者が、…

こんな夢を見た(結婚編)

子どもができて、結婚することになった。相手の実家にあいさつに行くと、相手の父親が少しルーズな人のようだった。僕に10万借りたらしい。(ここは自分事なのに、なぜか経験したことではなく伝聞したことになっている) そのお金で父親は好きなガンプラを買…