大井川通信

大井川あたりの事ども

現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史 2017

イースト新書刊。本書の中で、月間150冊出版される新書が雑誌の代わりになったのが、論壇劣化の元凶のように言われているが、まさにそれを地で行くような内容だった。

ロスジェネ世代でもある社会学北田暁大が、若者論の批判的研究をしている後藤和智と、経済に詳しい栗原裕一郎に声をかけて、自らのモチーフを展開した鼎談だ。

繰り返される主張は、ロストジェネレーション世代(≒70年代生まれ)が、左翼論壇で忘却されていることへの批判だ。ロスジェネ世代は、「就職氷河期」で経済的に冷や飯を喰わされ、上の世代からの若者バッシングの餌食にされたうえに、現在は、より経済的に恵まれた後続世代(90年代生まれ)に注目と共感が集まる中で、内田樹あたりからは「最弱世代」と罵られている・・・

しかし、左翼、リベラル論壇に対する批判というものが、経済(成長)がわかっていない、数字やデータの裏付けがない、という二点に尽きるというのでは、興ざめする。名前が挙がるのは、業界での「有名人」かもしれないが、彼らが束になっても実際には社会的影響力のカケラもないような人たちだろう。小さなコップのなかで、自分たちの優越を言い立てている感は否めない。

北田暁大にはかつて、ナンシー関を批評家として最大限にリスペクトする仕事で目を開かされたことがある。70年代以降の精神史をていねいにひもとくその著書の後書きには、この程度ではとても30年史は名乗れない、と書かれていたのだが。