菊池メソッドで有名な著者の本を初めて読んだときは、驚いた。子どもをほめればやる気を出して学力も上がる、というくらいの話だと早合点していたからだ。実際はそんな生やさしいことではなかった。
彼は荒れた学級で、子どもを一人ずつ教室の前に立たせ、級友全員からの「ほめ言葉のシャワー」を浴びさせる。賞賛のドーピングというべき異例の方法を使って、クラスの仲間(共同性)から離れた子どもの心をつなぎとめ、共同性の再建を果たそうとするのだ。子どもたちは、心からの喜びや満足は、仲間とつながることでしか得られないことに気づきはじめる。
著者は、厳しい現場での実践をとおして、人間の共同存在の根っこに「承認」があり、それが「言葉」で行われるという認識に至ったのだと思う。
本書では、そこから導かれた実践の技術が詳細に解説されているが、実際の章立てとは別に、大きく三つのグループに分けることができるだろう。
一つは、通常の一対一の場面で使われるコミュニケーションの基礎技術である。
もう一つは、学校の教室という一対多の場面でコミュニケーションを成立させるための応用技術である。80年代以降の「学級づくり」の課題に対応するものだ。
さらに、現代の教育現場で要請される、子どもが自ら学ぶ力を育てるようなコミュニケーションの専門技術である。
この三層のコミュニケーションを統率するのは主体的な教師であり、自立した責任ある個人を育てることを目標とする点で、ノリ重視の昨今のMC型教師とは一線を画している。