大井川通信

大井川あたりの事ども

観光客の哲学 東浩紀 2017

とてもいい本だった。

リベラリズムナショナリズムグローバリズム、そして観光客。キーワードは少ないが、論述は驚くほどていねいだ。

数少ない精選された概念で世界のリアルな見取り図を描くという、言うは易く行うは難い現代思想の課題をあっさり果たしてるように見える。これは、第一線での長年の批評活動の蓄積を背景にして、その成果を総合し、可能な限り平易に展開しようとする意志に由来しているだろう。

ここには、著者の肩ひじ張った独自の主張を聞かされる印象はない。むしろ、概念を材料にして編んだ、正確で使いやすく丈夫な地図を手渡されたように感じる。

だから、この地図の中で、読み手自身がどこにいるのかは、一目でわかるという仕組みだ。だが、それで安心できるわけではない。自分の居場所からの見通しが良くなって、前に進むことへの励ましを得るかどうかは、この地図の使い方次第だろうから。