大井川通信

大井川あたりの事ども

アメリカ人はどうしてああなのか テリー・イーグルトン 2017

原書は2013年にアメリカで出版、原題は『大西洋の反対から-ある英国人のアメリカ観』というちゃんとしたもの。著者はイギリスの高名な批評家だが、読んだのは初めてだ。

ここにくだけた調子で書かれている内容は、日本ではおそらく西欧文化論とかポストモダニズム論として抽象的、高踏的に語られるものだ。その時、日本の論者は、自分たちの実際の生活のあれこれとは切り離されたものとして、思想の模型を語る。

著者は、イギリスの言葉や生活の延長線上に、アメリカの異貌を語る。一口に西欧とまとめられない文化の差異を体感的に描きだす。その上で、現在の最先端の資本主義が、ヨーロッパとは異質なアメリカの産物であることまで語りつくす。楽園を回復する理想を抱く勤勉な人々が、無限の天然資源の前に立ったときに資本主義のファンタジーが生まれたのだ、と。

さらに、意志や欲望を万能とする資本主義をすり抜けるには「私たちがいるこの場に依存して生きる」(ロレンス)しかないという重要な示唆も、さらりと付け加える。

表紙はトランプらしき似顔絵で、それがらみで文庫化されたのがわかる。「捧腹絶倒」と裏表紙にあるけれども、自由自在な語りについていくのがやっとで、とても笑うことはできない。そのことでも、現在の世界を語る上での、著者がいる場所のアドバンテージを思わざるを得なかった。