大井川通信

大井川あたりの事ども

高階杞一詩集 ハルキ文庫 2015

1951年生まれの詩人の15冊の詩集からのアンソロジー。今では小学校の教科書にも載っている。平明な言葉で、素直な感情のひだをやさしくうたう。もちろん食い足りない人はいるだろうが、それが彼の選択した「詩」なのだろう。

僕は、突き抜けた設定で飄々と押しきる代表作の『キリンの洗濯』みたいな作品が好きなのだが、意外と多くない。気に入った作品を引用してみる。

 

テレビを見ていると

突然名前が呼ばれ

明日は羽黒山との対戦だ

と発表された

いきなりそんなことを言われても

まわしもないし

稽古も小学校以来していない

第一、羽黒山って誰だ?

箸を置き

庭の方に目をやると

もう

裸の大きな男が塩をまいている

                       (『塩』  後略  )

 

忘れ物をした電球が

犬を連れて帰ってくる

「何を忘れたか   忘れてしまった」

ぼうぜんと

門前でしおれている

とうぜん   明りもつかない

家は暗いまま

夜へ

傾いていく

妻は台所で包丁を研ぎ

犬は庭で

走り回っている

 

明りがなくても

進んでいく時がある

                         (『電球』)

 

後者は、この詩集の中で異質の重さを持っていて、作者らしくない作品かもしれないが、引きつけられた。