1951年生まれの詩人の15冊の詩集からのアンソロジー。今では小学校の教科書にも載っている。平明な言葉で、素直な感情のひだをやさしくうたう。もちろん食い足りない人はいるだろうが、それが彼の選択した「詩」なのだろう。
僕は、突き抜けた設定で飄々と押しきる代表作の『キリンの洗濯』みたいな作品が好きなのだが、意外と多くない。気に入った作品を引用してみる。
朝
テレビを見ていると
突然名前が呼ばれ
明日は羽黒山との対戦だ
と発表された
いきなりそんなことを言われても
まわしもないし
稽古も小学校以来していない
第一、羽黒山って誰だ?
箸を置き
庭の方に目をやると
もう
裸の大きな男が塩をまいている
(『塩』 後略 )
忘れ物をした電球が
犬を連れて帰ってくる
「何を忘れたか 忘れてしまった」
ぼうぜんと
門前でしおれている
とうぜん 明りもつかない
家は暗いまま
夜へ
傾いていく
妻は台所で包丁を研ぎ
犬は庭で
走り回っている
明りがなくても
進んでいく時がある
(『電球』)
後者は、この詩集の中で異質の重さを持っていて、作者らしくない作品かもしれないが、引きつけられた。