大井川通信

大井川あたりの事ども

『アジア辺境論 これが日本の生きる道』 内田樹 / 姜尚中 2017

内田樹の本を久しぶりに手に取った。

相変わらず、鮮やかな指摘(グローバル化で、自由という概念が「機動性」に改鋳された等)にうならされる一方、言葉の失速を感じる場面も多かった。

随分前、内田樹が中年過ぎて、学究と子育ての生活から論壇にさっそうと登場した時、目を見張った。いつの間にか「期間限定」という当初の看板をはずして、続々と出版を重ねるようになっても、多くの本からたくさんの刺激を受けた。彼には、汲めども尽きぬ思考の源泉が内蔵されている、という感じすらしていた。

やがて彼の発信にはますます「歯止め」がなくなり、ずいぶん格下と思える論者と対談したり、さほど面白くない彼の友人までが持ち上げられたりするようになった。政治的発言も多くなり、この本でも、特定の政治家や政策をさかんに切って捨てている。

その当否はわからない。ただ気になるのはむしろこんな所だ。

彼は、この5年ばかり韓国に講演に呼ばれるようになり、その中で、議論できる友人関係をつくり、日韓連携に向けてのささやかな「努力」をしているのだという。指一本動かしてない人とは違う、と。

ここにあるのは、講演旅行で知的な交流を享受する学者が、国内の愚かな嫌韓派を叩くという、彼らしくない凡庸な構図だ。内田樹にしても、自分の履く高下駄には気づけない、ということなのか。