大井川通信

大井川あたりの事ども

備中国分寺 五重塔

バイパスを高速で走っていると、進行方向の田園風景の中に、五重の塔の小さなシルエットを見つけて、はっとした。その姿は、近づくにつれ魅力を増し、観る者の胸を高鳴らせる。

備中国分寺の五重の塔は、広々した田園の奥の高台にあって、周囲の木々から五層の全身が浮き上がって見えるという理想的なロケーションにある。  

五重の塔の魅力とは何だろうか。美学的には、時代がくだるにつれ、五層の屋根の逓減率が小さくなり、機械的で潤いがなくなると言われていて、僕もそう思っていた。近場から見上げるとき、下層の安定感や上層に向けての締まりのない一本調子の江戸時代の塔はなるほど無粋に見える。

備中国分寺の塔は幕末のものだ。しかし遠くから観るこの塔の姿からは、五重の塔のまた別の魅力について考えさせられた。柱も壁も軒も屋根も、この土地の風土に生きる建物として完全に合理的な形態であり、見慣れたものだ。しかし、それを縦に五層重ねるとういう全く非合理的で不可解な選択が、観る者の視覚に異様な緊張と快楽を与える。そのためには、緻密な計算によるバランスよりも、機械的な反復がふさわしいのかもしれない。

さらに、備中国分寺の塔は、塔身も屋根も黒味が強い。柔らかな田園の色調を背景とする黒一色の姿が、メカニカルで非日常的なシルエットを一層際立たせているようだ。