大井川通信

大井川あたりの事ども

神社の恐怖

夕暮れ間近の神社の鳥居の前に、十人ほどの人だかりがある。地元のお祭りか何かなのだろう、と脇によけて鳥居をくぐると、石段がはるか上に続くのが見えた。駅や商店街からも近い街道沿いだが、この神社の山だけは開発を免れているようだ。拝殿にたどり着くが、誰もいない。さらに急な石段を登って、本殿にお参りするが、やはり人影はなく、大木に囲まれた境内にはすでに闇がこくなっている。壊れかけた石のホコラや石仏たちが暗がりのあちこちにひそんでいて、何かから神域を守っているように見えた。

長い石段の下から先ほどの一団の騒ぎ立てる声が聞こえてくるが、なぜか上に登ってくる気配はない。僕が降りたときには、街もすっかり暗くなっていた。さりげなく彼らを見ると、歳をとった人も若い人もいる。男もいれば女もいる。みんな興奮した様子で、お互いの手元をのぞきこみながら、何かの到着を待っているようだ。氏子ではない、と僕は直感した。むしろまったく別の異端の信仰を持つ者たちが集まって、何かを企てているのではないか。

「黄色が現れるはずだ」などと、彼らは僕には不可解な話に熱中している。ふと、西欧の妖怪たちによって神社が襲われる妄想が浮かんできて、僕はあわててそこを立ち去った。