大井川通信

大井川あたりの事ども

「運慶」展で高僧に出会う

話題になってるから、というくらいの理由で、上野の運慶展に立ち寄る。東京国立博物館は、平日なのにかなりの人の出だった。素人目にも、運慶の手がけた彫像は、力強さといい繊細さといい、抜きん出た印象を受ける。その中で、遠目にも、たたずまいが全く異質だったのが、無著菩薩と世親菩薩の二人の立像だった。彼らは、観覧者のざわめきを超然として見下ろしている。

僕は高僧と言われる人に実際に出会ったことはない。しかし、そこに立っているのは、彫刻作品ではなく、まぎれもなく圧倒的な徳をもつ僧の姿だった。無著菩薩は、何もかも見通すような鋭い眼差しで、世親菩薩は、あたたかく包みこむような強い眼差しで、それぞれ問いかけてくる。「お前に仏法は届いているのか」と。

二人が見下ろす視線に囚われて、僕はしばらく身動きすることができなかった。その間の言葉にならない問答を通じて、彼らから教えを直に受けた気がしている。