大井川通信

大井川あたりの事ども

旺文社文庫の箱

だいぶ前に発行をやめてしまったが、学生時代には、旺文社文庫が好きだった。文庫には珍しく箱入りの時代もあって、当時は古本屋の棚でそれを見かけることができた。箱がなくなったあとのカバーも、他の文庫とは違って一冊ごとに違うデザインで装丁されて明るい印象だった。

受験参考書の老舗だったためだろうか、各ページごとに注釈が加えられて、解説のページが圧倒的に充実していた。作品の鑑賞やエッセイ、作者の年譜のページもあった。僕の評論好きは、文庫本解説を読むことから始まったから、多分に旺文社文庫のおかげである。もう一つの特徴は、詩歌の文庫が多く入っていたこと。それも新潮文庫のようにただ作品を並べただけではなく、ページの下欄に解説が入っていたので、初心者には近づきやすかった。今でも、朔太郎や伊東静雄など近代詩の有名どころが10冊ばかり手元にあって、ときどきはめくっている。

この一冊、を挙げるとすれば、『タダの人の思想から-小田実対談集』1978年刊。思想面ではかなり奥手な子どもだったけれど、この本は高校時代に購入して、石原慎太郎との歯に衣を着せない対談をどきどきして読んだ記憶がある。

調べると、創刊は1965年で廃刊が1987年だから、今年で廃刊して30年になる。どうりで古本屋でもあまり見かけなくなっているわけだ。