大井川通信

大井川あたりの事ども

橋を渡って

読書会のはじめにある参加者同志の自己紹介で、よく話に聞いていた息子の親友が、その場にいることを知った。お互いに驚いたが、せっかくだから会の終了後、場所を変えて話すことにした。二人で商店街を抜けて、街の中心を流れる川にかかる橋を渡る。このあたりで息子ともよく飲んだと教えられる。

彼らと同じ社会人一年目でこの街に来た僕は、仕事も生活も恋愛もまるでうまく行かなかった。三年ですべて破綻して、東京に戻ることになる。何が原因だったか覚えていないが、この川の橋の上で、職場の人相手に酔っぱらって大立ち回りを演じたことがあった。

川近くのスタバで、一時間ばかり、息子の姿がダブってすいぶん説教じみた話をしてしまった。文学や思想が好きな夢想家は、社会に出るとそのギャップに驚くことになるのは、キャリア教育なんてものがさかんになった今でも変わらないだろう。ただ、本を読んで考えることを続ければ、必ず何かにつながるはずだ。

別れて店を出ると、大通り沿いに当時の僕の会社のビルが、社名の看板やテナントを失って、亡霊のように白っぽく立っている。以前働いていたフロアーだけが、仕事が終わらないのか明かりがついている。なんだか、そこにかつての自分がいるように思えてならなかった。