大井川通信

大井川あたりの事ども

フリースペースとしての神々

近隣にある集落が、里山の山上にクロスミ様という神様をまつっている。集落の人口が減りだしたときに、住民たちがクロスミ様をおろそかにしたためではないかと考えて、ホコラを囲う小堂をつくり、それだけでなく、由来を書いた説明板と、街道脇にクロスミ様入口の看板を立てた。ちなみにこれは平成に入ってからの話だ。入口の看板と説明板は、明らかに部外者のお参りを想定している。共同体の外部に通じる神々は、共同体外からの参拝を好むと考えられているようだ。

一般に古い村落は閉鎖的で排他的だと思われている。実際にそのとおりだろうが、上の理屈から神々の場所である神社の境内は、お参りの素振りさえしているならば、誰が出入りしても怪しまれないフリースペースとなっている。鎮守の社への通路は、お参り目的ならフリーパスとなるだろう。

さらに、村落には様々なホコラや石仏など神々の場所がある。たとえば、里山にあるホコラの神様の名前を憶えておけば、権利者不明の狭い山道で地元の人に見とがめられても、◯◯様にお参りに伺います、といえば、どうぞどうぞと頭を下げられること請け合いである。現在の住民たちは、以前ほど神様を手厚くまつっていないという後ろめたさがあるから、なおさらだろう。

「お参りさせてください」は、村落共同体に入り込むためのマジックワードだ。