大井川通信

大井川あたりの事ども

『雨の日はお化けがいるから』 諸星大二郎 2018

ほぼ新作のみの作品集だけれども、いい方向に予想が外れて面白く、一気に読めた。民俗もの、少年の非日常体験、中国もの、ナンセンス、ギャグ、異世界もの等、バラエティに富んで初期の本のような楽しさがある。実は先日三巻で完結した現代が舞台の魔術ものの『BOX』に少し失望していたところだったので。

中核をなす三つの短編がどれも充実しているのが大きい。『闇綱祭り』は、諸星の面目躍如たる好短編だ。今でもこんな面白い作品が書けるのか、と驚いてしまった。ムラの祭りを媒介に異世界を登場させる手法はおなじみだが、片身神社という社殿が半分に断ち切られた神社のアイデアと、異界との綱引きという設定が卓抜で、ビジュアル的にもインパクトがある。均衡という言葉を使って、現代の問題とつなぐところも心憎い。『ゴジラと見た少年』では、よりストレートに社会問題とのつながりを設けていて、結末でやや違和感を抱かせるが、作品全体としてレベルが高い。夢とも現ともつかない闇の中で怪物の姿を遠目に見た少年が、翌日その場所にいってみると実際に街が破壊されている、という描写は自分にはたまらないところだ。

表題作は、非日常と隣あわせの少年の日常をリリカルに描く。どこか異界のにおいを感じさせる少女がとても魅力的。諸星の中国ものが好きな自分には、『影人』の荒唐無稽で単純明快なストーリーもうれしかった。