大井川通信

大井川あたりの事ども

「冬の盆」から6年

その演劇ワークショップに申し込んだのは、ちょっとした気まぐれだった。しかし偶然が重なり、2年越しの参加となって、実際の小劇場の舞台に立つことになる。それがちょうど6年前。

公立劇場の先進的な取組に、多田淳之介という優れた演出家が力をふるった企画で、今思えば、本当に得難い体験をしたと思う。ある地域の高齢者の方が半分、公募による広い年齢層のほぼ素人が半分で、市民センターを舞台に連続ワークショップを実施した。参加者が一緒に地域を歩いて地域をネタに芝居を作り、演出家のアイデアを加えて、二日間の劇場公演を行った。新聞の劇評にも取り上げられ、後日報告書のための参加者座談会に出たりもした。

多田さんには公演直前、自分なりの「伸びしろ」を見せたいと話した記憶がある。振り返ると、このワークショップから受け取ったものが多いことに驚く。その後の「伸びしろ」をメモしてみよう。

《演劇》  観劇の習慣がつき、あれこれ考える手段となる。昨年自分主催の勉強会では、自作の寸劇を一緒に演じてもらいつつ、演劇論の報告をした。

《教育》  教師たちと議論する上で、多人数が同一空間を共有する事態そのものを注視する多田演出の経験は、とても大きかった。それが教室の原点であるにもかかわらず、意外に等閑視されてきたから。

《地域》  地域との泥臭い関わりは、地元の組長、自治会長を引き受ける事で体験。公民館での敬老祝いの会では、役員たちと芝居の出し物をした。役員にたまたま演劇関係者がいたので、小規模ながら殺陣の稽古も演出も本格的。寸劇「歯磨き侍」の主役を務めた。

《虚構》  地元のお年寄りから昔の話を聞き取りして、それをもとに手作り絵本を作り、ご本人に手渡すことを細々続けている。「ひらとも様」や「大井はじまった山伏」などを描く。虚構を介して地域に関わる独自の方法論。

《模索》  地元に対してたえず新鮮な目線で関わる体験は、大井川歩きで継続中。現在は、建築系のまちづくりワークショップに参加して刺激をえている。