大井川通信

大井川あたりの事ども

ゲンゴロウの狡知

ほとんどの水生昆虫は、空気中から酸素をとりいれて呼吸している。水中に身をひそめているゲンゴロウも、頻繁に水面に上がってきて、素早くおしりを水面に突き出し「息つぎ」の仕草を見せる。

面白いのは、空気をため込む場所である。固い前羽と背中の間にすき間があり、そこをボンベのようにして空気を持ち運んでいる。さらに彼らは水中で、おしりに空気の泡を一つ付けていることがある。これがなかなか愛らしいのだが、実はこの泡も呼吸に関係があるらしい。泡の壁が、わずかながら水中の酸素を取り込み、逆に二酸化炭素を外に出す働きをしているそうだ。

大井川周辺の田んぼで、ハイイロゲンゴロウよりも普通にみられる水中の甲虫は、これも1センチばかりのヒメガムシだ。真っ黒な身体で、ゲンゴロウに似てはいるが泳ぎが下手でもたもたしている。一瞬ゲンゴロウかと勘違いして、すぐにがっかりすることをだいぶ繰り返してきた。以前は一回り大きいコガムシの姿を見ることもできたが、今はどうだろうか。ガムシの仲間は、おしりではなく、頭部を水面に出して、平らな腹部の側に空気の泡をためこみ、それで水中で呼吸をしている。だから水中でヒメガムシのお腹をみると、空気の層が銀色に光ってきれいなのだ。

この辺りでは見ることはできないが、タガメタイコウチなどのカメムシの仲間の水生昆虫は、おしりに呼吸管を持ち、それをシュノーケルのように突き出して呼吸をする。もともと陸上で暮らしていた昆虫が、それぞれ気が遠くなるような時間をかけて、独自に工夫を重ねてきた結果なのだろう。そうして、力の強い者も弱い者も、泳ぎの上手い者も下手な者も、小さな田んぼの水中でともに生きていることの不思議さ。