大井川通信

大井川あたりの事ども

ゴーゴリ『死せる魂』を読む

子どもの頃から、ニコライ・ゴーゴリ(1809-1852)が好きだった。なんで好きになったのか、もう覚えていない。隣のいとこの家にあった少年少女世界文学全集で『外套』を読んだためかもしれない。唯一の好きな外国文学の作家で、それでロシア文学の勉強をしたいとあこがれた時期もあった。建築学を学びたいと思ったりもしたが、結局法学部でお茶をにごすことに。

読書会で、ゴーゴリの短編が課題図書になった。ありがたい。これを機会に主著の長編『死せる魂』を読んでみようと思い立ち、ついに読み切った。実は主著すら読んでいなかった、というおそまつな事実はさておいて、達成感と充実感は半端ではない。子どもの頃、自動車の図鑑に首っ引きとなり、いつかはポルシェに乗りたいと夢想して、ついに手に入れた時のような感激だ。僕がポルシェを手にする見込みは現実的にはゼロだが、生涯のうちに『死せる魂』を通読する可能性も、こんな僥倖に恵まれなければほぼゼロだったろうから、実現した喜びは、おそらく同じようなものだ。いくら名作でも『カラマーゾフの兄弟』や『明暗』に縁はなくても、やはり僕は『死せる魂』だけは読むべき運命にあったのだろうか。

以下、再読のためのメモ

第1部 【1章】チチコフ、ロシア北部のNN市に到着。県知事ら表敬。夜会に出席。【2章】地主マニーロフ訪問。お目でたい善人。友情をいつわり死んだ農奴の購入成功。【3章】未亡人コロボーチカ邸に偶然訪問。因業な老婆を脅して取引成功。【4章】地主ノズドーリョフに出会う。ばくち好きでほら吹き。暴行され逃げ出して、取引不成功。【5章】地主ソバケーヴィッチ訪問。熊なみの大男でしまり屋。取引成功。【6章】地主プリューシキンのゴミ屋敷訪問。けちんぼの廃老人。取引成功。【7章】裁判所での農奴取引の登記手続。チチコフ大金持のウワサ広まる。【8章】舞踏会でチチコフに心酔する市の人々と婦人たち。【9章】一転、チチコフのゴシップ広まる。死んだ農奴購入し、知事令嬢誘拐か。【10章】役人たちの動揺。傷痍軍人の挿話。検事の死。【11章】チチコフ、NN市から逃走。チチコフの履歴。死農奴購入の理由。

第2部 【1章】ロシア南部の地主テンテートニコフ。理想に破れのらくら暮らす。チチコフ訪問し、逗留。【2章】テンテートニコフとの和解の仲介で、ベトリーシチェフ将軍訪問。豪放磊落な性格で、取引成功。【3章】チチコフ、将軍の依頼で親戚訪問。地主ペトゥーフを誤って訪問。気前のいい巨漢。隣家の地主プラトーフと出会い、旅の同伴を約束。将軍の親戚コシカリョーフ大佐訪問。委員会かぶれで、取引不成功。プラトーフの義兄の地主コスタンジョーグロに紹介され、農業中心の勤勉で大胆な経営にチチコフ感銘を受ける。【4章】コスタンジョーグロの薦めと助力で、地主フロブーエフの荒れた所領をチチコフ買い取る。一方、フロブーエフの金持ちのおばハナサーロフの遺書の偽造にチチコフが関与。【・・章】遺書の偽造や死んだ農奴の購入等のチチコフの悪事が露見。公爵による裁きを前に絶体絶命。人格者ムラーゾフに助力を請い、死んだ農奴(財産)でなく生きた魂(精神的富)を求めよと忠告受けるが・・。(未完)