大井川通信

大井川あたりの事ども

へびゴマの謎

子どもの頃、行きつけの駄菓子屋「おっさんち」で手に入れたオモチャの中で、忘れられないのがへびゴマである。簡単なのに、その見事な仕掛けに感激したのだ。

鉄の軸にブリキの円盤がついた何の変哲もない小さなコマ。回しても何もおきない。ただし付属品の小さなブリキのへびを近づけると、コマの足元で、へびが前後にくねくねと、まるで生きているように動きだす。種明かしをすると、コマの軸が磁石になっているのだ。軸にくっついたブリキのヘビは、軸の回転によってなめらかに前後に動かされる。

それが小さな地味な紙の箱に入れられて、一個数十円で売られていたと思う。店に入って、左側の壁面の手前の高いところに吊るされていたことまで、覚えている。たぶん、おっさんちの定番商品ではなかったのだと思う。当時すでにカラーの台紙に貼り付けられたプラスティック製のおもちゃが主流な中で、それは異質な外国のオモチャのようだった。そんなに大切なものなら、保存しておけばよさそうだが、どうしてか失ってしまった。それ以来、大人になってからも、駄菓子屋に入っては、生き別れた家族みたいにへびゴマを探していた。

実は、長い間、へびゴマという名前も知らなかった。今から十数年前に、ふと思いついて、コマ、ヘビという検索ワードで探すと、独楽や遊びの専門サイトで、一般的な名称を知ったのだ。そのあとだと思うが、ついに駄菓子屋で、プラスティック製の大振りのへびゴマ売られているのを見つけた。うれしかったが、やはり今どきのオモチャ風なのが気に入らない。本体がUFO仕様で、宇宙を模した楕円形のブリキを動かすコマも手に入れたが、やはりピンとこない。

今回久しぶりに検索すると、資料をプリントアウトした2006年に比べて、へびゴマの情報があふれている。00年代中頃以降の「情報爆発」は本当だな、と感心する。駄菓子屋で手に入れたのと同じプラスティックのへびゴマが今も流通しているようだ。回転の様子を映した動画まで何種類も見ることができる。

その中に、コマの仕様といい、黄色っぽい箱の「made in japan」の文字といい、 まちがいなくあの時と同じものだと確信できるへびゴマの動画があった。英語がわからずに、ずっと外国製と思っていたのだが、輸出用の製品だったのだろう。昭和30年代の製品と説明されているから、僕が購入した時より、いくらか古い年代のものになる。想像をたくましくすれば、おっさんがデッドストックの商品を安く仕入れてきて、一時的に店頭に並べていたのかもしれない。