大井川通信

大井川あたりの事ども

モズのはやにえ

ベテランの天文ファンの知人がいた。その世界で実績を積んでいて、自宅にも望遠鏡のドームを作り、相当の機材をもっていたようだ。僕は、小学生の高学年くらいの時だけの天文ファンだったが、デパートで望遠鏡のカタログを集めてきて、穴があくほど見つめていたので、部分的な知識だけはある。オルソスコピックケプラー、それからハイデン。望遠鏡の接眼レンズの種類とそのレンズの組み合わせを得意げに話すと、彼は感心してくれた。

その知人が、外国に皆既日食を観に行ったことがある。何度目かの挑戦でようやく観察に成功したと喜んでいた。皆既日食に出会うと人生観が変わるというくらい素晴らしいものらしい。ただ彼にはそうしなければいけない別の理由もあったという。彼くらいのアマチュア天文家になると、皆既日食を観たことがない、というのでは格好がつかないそうだ。そんなものなのかと思っていた。

さて、話のレベルはとてつもなく、ぐっとさがる。僕は一応、鳥見を趣味にしていて、しかも身近な鳥の観察しかしていない。子供の時から、好きな鳥といえば、モズだ。電線で尾を回し、野原のバッタなどに目をつけて、飛び降りて捕まえる生態は何度となく観察してきた。にもかかわらず、有名なモズのはやにえをただの一度も見たことがないのだ。これは、ちょっと格好がつかない気もする。

モズは、捕まえた獲物を木の棘や有刺鉄線などに刺しておく習性がある。餌の備蓄のためともいわれているが、諸説あるようだ。普通に鳥見に歩いていたら、いつかは出会えると楽観しているうちに、今に至ってしまった。おそらく、特別な目の付け所が必要なのだ。今年の秋には、必ず見つけて、汚名挽回したいと思う。