大井川通信

大井川あたりの事ども

化かされた話(森の恐怖)

森の中に通じる小道の入り口に、遠目には、白と黒に色分けされた紙袋のようなものが置かれている。周りで鳥が騒いでいる。あれは何だろう。

近づくにつれ、紙袋ではなく、こちら向きで座る白黒の子猫だとわかった。この辺で見たことのないかわいい猫だ。鳴きまねをして手招きするが、子猫は小道を森の中に逃げ込もうとする。しかし、とぼとぼとおぼつかない足取りだから、追いつけそうだ。

思わず走り出す。森に入ると道はゆるやかに蛇行し、猫を見失う。すると、こんどは道の先に、灰色の毛皮でできた大きな袋がポツンと置かれている。

近づくと、毛皮の袋と思ったのは、むこう向きのタヌキの背中だった。町では見かけない毛のふさふさした大きなタヌキは、ゆっくり振り向くと、道のわきのやぶに入っていった。