大井川通信

大井川あたりの事ども

カシパンとトビ

今の時期の浜辺には、海流の関係か、様々なものが打ち上げられる。製造年月日が先月の真新しいハングル文字の飲料ペットボトルが転がっている。先日ミサゴが、海面から獲物のダツをつかみあげる場面を目撃したが、ワニのような口のダツの頭だけが落ちている。ミサゴが食べ残したものだろうか。

平べったい円形のウニの仲間であるカシパンの殻をひろう。命名の由来は、やはり菓子パンに似ているかららしい。割れていないのは珍しいので、そっとハンカチに包む。

河口の上空では、一羽のミサゴが、強い海風に向かって、ホバリングをしている。ヒバリかと思うくらい、長い時間、一カ所から動かない。羽ばたきと滑空の姿勢を繰り返しながら、眼光は水面に注がれている。そのあたりの浅瀬には、獲物をねらうシラサギも立っているから、魚の影が見えるのだろう。

双眼鏡を夢中でのぞいていると、不意に耳元に、バサッという大きな羽音と風圧を感じて驚かされた。トビが頭をかすめたのだ。実は、先ほどのカシパンの殻を包んだハンカチをしっかり手に握ったまま、双眼鏡を構えていたのだ。人間の手元にある包みには、たいてい食べ物があると知っているのだろう。残念ながら、菓子パンならぬカシパンの殻しか入っていない。直前であきらめて飛び去ったとみえる。

人間がトンビに油揚げをさらわれるのは、大昔からだろうが、実際に自分が狙われたのは初めてだ。ミサゴばかり注目しないで、こちらの方も、ということか。