大井川通信

大井川あたりの事ども

君はハルゼミを知っているか

セミは、郊外育ちの昆虫好きの元少年にとって、一番身近な長年の友人である。だから、セミに関するネタは山ほどある。

昔の東京では、アブラゼミが主力だったが、今ではミンミンゼミも平気で街中で鳴くこと。西日本では、クマゼミの天下だが、生息域が東京に迫っていること。ミンミンゼミを聞かない九州では、クマゼミをミンミンゼミと取り違えている人がいること。クマゼミの大声は、午前中でピタリとやむこと。ヒグラシには、白い泡みたいなセミヤドリガの寄生が多いこと。

今住む地方では、梅雨の時期にニイニイゼミが鳴き始め、梅雨が終わる7月中旬にクマゼミが鳴きだして、アブラゼミがそれにまじる。8月になると、ツクツクボウシが鳴き始めて、それは10月初旬まで聞くことができる。

ところが、昨年初めてハルゼミというものの存在に気づいた。これは松林にしか住まない種類で、それまで身近に松林がなかったからだ。そのハルゼミが今年も松林で鳴き始めた。図鑑では「日照性」「合唱性」という言葉で生態を説明しているが、明るく日が照ると鳴き始める。また一匹が鳴きはじめると、それにあわせて周囲が鳴きだすのは、カエルの合唱のようだ。声も、他のセミのような機械的な力強さはなくて、生身のカエルっぽく、ゲー、ゲー、ゲーとゆっくり鳴いて、短めに終わってしまう。初めに気づいた時は、本当にカエルと思ったほどだ。

今年は、偶然姿を見つけることもできた。幹ではなく、細く横に伸びる枝に止まっている。胴が細長く、そこからあまり羽が飛び出していない。その胴を細かく収縮させて鳴く声は、近くで聞くと意外に大きい。黒っぽいアブみたいで、セミらしくはない。気をつけてみないと、とてもわからないだろう。

姿を見たとなると、次に見つけたいのは抜け殻だ。近辺を探し回るが見当たらない。このシーズンにはぜひ見つけたいと思う。