大井川通信

大井川あたりの事ども

高槻のこずえにありて

鳥見を始める前は、短歌や俳句で名前だけを先に覚えてしまい、実物を知らない鳥がけっこういた。ホオジロもそのひとつ。

「高槻のこずえにありて頬白のさへづる春となりにけるかも」

島木赤彦(1876-1926)のこの歌は、春の訪れの喜びを歌って鮮烈だ。高槻(たかつき)は、高木のケヤキのこと。ケヤキは、武蔵野ではなじみのある大木だし、今の自宅の玄関にも植えてある。

ホオジロ(頬白)は、林の周辺の草地などでよく見かけ、スズメより尾が長く、少し大きくみえる。身体はスズメのような茶色だが、オスは頭に黒と白のマスクをかぶった感じで、メスはマスクの色が薄い。さえずりでは、とても早口で長めのフレーズを繰り返す。チョッピーチリチョピーツクという風だが、「一筆啓上仕り候」という伝来の聞きなしもある。さえずりの時も電線に止まったり、木々の枝の中に紛れたりしていることが多く、この有名な歌のように、高い木のこずえでさえずる姿には、意外に出会うことは少ない。

それが今朝は、姿のよい大きな松の木のてっぺんで、天を仰いで鳴くホオジロを見たのだ。季節も早春ではなく春たけなわの4月だし、ケヤキのこずえでもなかったが、それでもとてもうれしかった。